約 1,964,967 件
https://w.atwiki.jp/yaruoseirei/pages/146.html
__ _, '"´ `丶、 / \ / ,' / / / ヽ `ヽヽ l l j __ // ,イ 、ハヽ }! ハ l l 「 j_从7ヽハ !七大 ` } リ }/ | l Vf゙仡圷/ jl ノィアト、ヘ// / j l l V_ ソ ´ V リ /jイノ ,' ハ ヘ. ' ` ,' l ! / / l ヽ ー ‐ .厶 |ハ //' ∧ 弋ト 、 __ , r<7 l ヽ / / / ∧ Vー、 Kヽ{ ヽ ヽ / /./ /¨} ',__∧_j_l ハ \ }/ ,′ l { / / / ヾ ☆Y ハ X { V r' / / \__j 入xぅ/ \ ヽ l { / / V //∠ ', } ! j/ / ! ∧V _二} ヽ / / / { 〈 l / | j/ -ーソ ノ / / / |ヽ \ l /∠/j rテ' 〃 ( ヽ , ./ / 、__jノ ∧{ / ,/ { _/ ハ `ー彡 / 〃 、__ > / ;>'´ /! ∨ヘ ヾ \ < _ ヽ {{ =ァ 彡< / { く{ ヽ ヽ ユ=―'´ ━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━ ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール Lv 20 HP ??? @? 攻撃 F- 防御 G 速度 E 魔力 D+ 精神 E+ ━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━・・・━ 【アタック】 エクスプロージョン : 爆発呪文。至近距離で全てをふっ飛ばす。【魔法】【全体】【赤】 【ディフェンス】 マインドシールド : 精神を変換させて盾を形成する。やや魔法攻撃に強い。【魔法】【全体】【赤】 ファイアクローク : まとった炎で相手を焼き返す赤のディフェンス。【魔法】【反撃】【炎】【赤】 イリュージョン : 大量に分身を出しての緊急回避を行う。【回避】【赤】 サイコアーマー : 念のこもった鎧をまとう。物理にも魔法にも有効。【複合】【赤】 【サポート】 メガ : 炎と風の重属性魔法。爆発する。【魔法】【全体】【炎】【赤】 イオ : 爆発するエネルギーを敵陣にぶち込む。【魔法】【全体】【炎】【赤】 ファイアボルト : 赤の基本魔法。アタッカーを狙う。【魔法】【赤】 ファイアボール : 赤いの基本魔法。ディフェンサーを焼き尽くす。【魔法】【赤】 インプロージョン : 魔力で相手を閉じ込めて爆発させる。色を持たない。【魔法】 【アビリティ】 虚無の魔法 : 一回だけスキルに貫通効果を付与する。 【パッシブ】 虚無の担い手 : 所持する魔法スキルすべての色、属性が消失し、【げんそう】が付与される。 ARMAGEDDON : 敵対時のみ有効。オールラウンダーになれる。 また、オールラウンダー時HPが増加し、多くの状態異常を無効化する
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/2768.html
前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ 拝啓、私の王子様 すごいです。私、王子様の顔を見ただけですごくどきどきしてしまうんです。 この思いを王子様に伝えたい………でも私は臆病だからそれをいまだに伝えられずにいたんです。 だから私、この思いをチョコレートにこめました。私の愛の手作りをどうか召し上がってください。 しらとりく……死神ももえ 「で、それが愛の手作りチョコなわけ? 明らかにシエスタに作ってもらってたけど。」 「そーだよ。これが愛の手作りチョコレート 私料理下手だから。」 リボンで梱包されたチョコレートをさも自分のものかのように扱うももえであった。 「いいんですよ。私はモモエさんのお世話をすることが数少ない生きがいなのですから。」 「………! ねぇちょっと、あんたシエスタに何したのよ! 何したのよーーー!!!!」 にっこりと曇りない表情で微笑むシエスタをよそに、ルイズはももえの襟首をつかんでがくがくと上下させ続けた。 これが投稿されたらうどん食べて寝る「ゼロの使い魔死神フレイムデルフリンガーシルフィード二年生ももえサイズ」 馬に乗って帰ってきたルイズは、先に帰ってきてたももえ達から自分達が学院内でしばらくの謹慎を命じられたことを知った。 仕方ないとはいえルイズは思わず肩を落とした。しかしももえは相変わらずの様子だ。悪魔はこの学院内にまだ潜んでいるらしいが……… 「洗濯をしてきなさい。」 翌日、ももえの前に大量の下着やら何やらが渡された。御主人様と使い魔の主従関係を示すのが先決だとルイズは考えたのだ。 「これは?」 「見れば分かるでしょ。私の下着よ」 「………」 「こらぁ! いきなり臭いを嗅ごうとするなぁ!」 思わずルイズは下着をひったくった。 「………ったく、いい加減にしなさい! その洗濯が終わるまでこの部屋に戻ってきちゃだめだから。いいわね?」 「とはいっても………」 大量の洗濯物を持ってももえは頭を抱えた。ももえは洗濯などしたこと無いのだ。メイドのメイちゃんが全部してくれたから。 「メイド、メイド、メイド…………メイド!」 するとたまたまメイドがちょうど通りかかってきたのでその娘にお願いすることにした。 「そこのおっぱい星人!」 「誰がおっぱい星人ですか! しかもなんで初対面の人にいきなりそんな事を言われなきゃいけないんですか!」 メイドは胸をぷるんぷるんとゆらしながらももえに近づいた。 「どうでもいいけどとりあえず名前を聞いておくわ。そうしないと話進まないし」 「私の名前はシエスタで、このトリステイン魔法学院で給仕を中心にメイドの仕事をしています。で、あなたはミス・ヴァリエールの………」「生き別れになった双子」 「いやいやいやいや、確かあなたはミス・ヴァリエールの使い魔のモモエさんだったはずでは……」 「だから早くこの下着を洗ってね☆」 「だから って何ですか! この下着を私に洗えと!?」 「だってあんたさー、本編のみならず幾多数多のSSで召喚されてた奴と友情やらなんやら育んでたし」 ???ものしり館??? ※幾多数多のSS【いくたあまたのえすえす】 「幾多」とは数多くの、「数多」とは数の雅語的な表現。つまり数多くのという意味で今回は使われている。 ゼロ魔本編でのヒロインぶりは勿論のこと、「召喚されました」SSでもシエスタが召喚された者の味方になるケースが多い。 そして今回の場合幾多(ryでのルイズとシエスタとの友情も含まれていたため、イメージ図での大きさは5mぐらいの大きさと思われる。 「いきなり何わけのわかんないこと言ってるんですか! いくら私が人のいいメイドとはいえ、こんな勝手な人の頼みなんて知りません!」 シエスタは怒ってしまってこの場を去ろうとしている。 その時ももえには『幾多数多のSSで培ってきた友情』のイメージ図がシエスタの体からふわふわと離れていくのが見えた。 「あ、そうだ!!」 ももえはカマを取り出すとそれをばっさりと真っ二つに斬った。すると、 「モモエさん だーい好き!」 くるりと振り返ったシエスタはももえに抱きついたのであった。 『ももえのカマで斬られた物の存在はももえが肩代わり』 「じゃあ、洗濯してくれる?」 「はい! 下着からミス・ヴァリエールとの鬱陶しい関係までなんでも洗い流して差し上げますよ!」 「あははははは」 「あははははは」 シエスタを抱きかかえたももえはしばらくその場を回り続けた。 翌朝、ルイズの部屋の元にシエスタがチョコを持って訪れた。それを受け取ったももえはたいそう喜んだのだけど、 「それで、このチョコレートは誰にあげるつもりなのかしら?」 ルイズは作られたチョコを見てそう尋ねた。形も整っていて真心が感じられる物だと思う。その相手に向けられてないのは確かだが 「憧れのギーシュさまに………」 「ぶっ! あっ、あんたみたいなのがあんなのに興味を持つなんて、い、意外ね。」 ルイズの声は上ずっていた。正直驚きを隠せなかったのだ。趣味を疑う的な意味で 「実は昨日、女の子を一人斬っちゃってさー」 「え」 「いやー、でもあれは仕方なかったよ。ねー、シエスタちゃんもそう思わない?」 「思います、思います。 本当あれは相手が圧倒的に悪かったですから。」 ルイズはこの二人が真実を語っているとは到底思えなかった。そして腕組みをして考え込んでいたら、ある答えがひらめいた。 「その娘って、もしかしてケティの事じゃないかしら?」 ケティはルイズたちの1年後輩で最近ギーシュと付き合っている女子のことである。 「あー確かそんな名前だったような」 「すごい洞察力ですね、ミス・ヴァリエール。」 シエスタはルイズのことをほめたのだが、明らかに棒読みだったのでルイズを苛立たせただけだった。 「それが臭くってさ~」 「あははー臭いですよねー」 二人が別次元の会話をしているのをよそにルイズはまた腕組みをして考え込んでいた。 「たしかにギーシュはもてるわよねぇ………」 ギーシュは女の子に甘ったるい言葉をかけたりするなど、女子には優しかったから人気はある。 しかしギーシュには前から恋仲であるモンモランシーという女子がいたはずだ。恐らくあいつの事だから二股でもかけてたんだろうかと思いをめぐらせてるとまたある答えがひらめいた。 「もし、あんたが後輩を斬ったって事は………下級生?」 「「あ」」 「わあ、超人的洞察力ですね、ミス・ヴァリエール」 『ももえのカマで斬られたものの存在はももえが肩代わり 後輩のケティが斬られたのでももえの学年が1年下がります』 ???ものしり館??? ※肩代わり【かたがわり】 本来他人が背負わなければならないものを自分が代わりに背負うこと。 このSSでの「肩代わり」の解釈は能力的なものから肩書き的なもの、物理的なもの等、時と場合と都合に応じて変化する。 つまり前々回は上級生の「称号」だけ肩代わりされたにもかかわらず今回性格的なものも肩代わりされているというのは作者のご都合主義に他ならない。 しかしクロス先の「ももえサイズ」はそのような枝葉末節など吹き飛ばしてしまうような漫画なのでそれに倣ったまでである。ご容赦いただきたい。 とうとうその時がやってきた。ももえはいてもたってもいられなくなって空を飛んでギーシュの元へと向かった。 「きゅいきゅい」 『シルフィードの能力』 そして上にはシエスタとルイズが乗っていた。 ルイズも結局この騒動に巻き込まれたからには必ず元を取ってやろうと思うようになったのでももえについてきたのだ。 「わぁ、私達って今、空をとんでいるんですね。」 「言いたいことはそれだけなの!?」 シルフィードの能力を無駄遣いしつつも素早くギーシュを発見し急降下した。 「いやああああああぁぁぁあぁぁ!!!!」 「あはははははは。あっははははははははは」 「むしろそれは中原よね………」 ギーシュは友人達に恋人とはなんであるかを偉そうに解釈していた。 「…………であるからして僕は薔薇一族を作るのが夢なんだよ。」 ???ものしり館??? ※薔薇一族 【ばらいちぞく】 ローザネイから派生する競走馬一族である。ローズやローザなど薔薇に関する名前が付けられることからきている。 GⅡ、GⅢは勝てるのにGⅠになるといまいち勝てなくなることで有名。 そんな成績のためか、この牝系にはファンが多い事で知られている。 友人達が上空の異変に気づき逃げようとするものの時すでに遅し。ももえ達は思いっきり突っ込んだ。 「うわあああああああ!!!!!」 「きゃあああああああ!!!!!」 そしてそんないざこざの間にギーシュの胸ポケットから香水の瓶が飛び出した。 「落ちる!」 ももえはおもわず手にしたカマでそれをキャッチしようとしたが、 ざしゅっ 小さな瓶はきれいにまっぷたつに割れた。 「つまり、これは………」 いち早く立ち上がったルイズが横になったまま動かないももえを見てまたしてもあることに気づく。 「ギーシュさまぁ」 「ごほっ………ごほっ、なっなんだい君は。」 「私、ギーシュさまの落とした香水ですよー。だから拾ってくださーい」←使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生 「なっ、何を言っておるのだ。僕はこんな大きな香水は落としてないぞ。じゃ、じゃあ僕は用事があるからこれで」 そんな事を言うとギーシュは逃げるように去ってしまった。 「じゃ俺も用事があるし。」 「あっ、俺も。」 「俺も俺も」 ギーシュの友人達もそれに続いた。後に残されたのは寝転がったままのももえとそれをじっと見つめるルイズとシエスタだけだった。 ももえは懐から取り出したプラカードとマジックで「拾ってください」と書いて自分の首に巻きつけたのだが一向に効果は見られなかった。 そしてルイズがあきらめかけたその瞬間! 「あら、こんなところに私の香水が落ちてるわ」 たまたま通りかかったのはギーシュの香水を作った女子、モンモランシーであった。 「でも、こんなに大きい香水ははじめてみたわ。どうやって持って帰ろうかしら。」 モンモランシーはももえの前でうんうんと唸り始めた。見かねたシエスタが声をかける。 「あの、これって実は 「私が手伝うわ。」 「あら、いいの? ミス・ヴァリエールが人の手伝いを進んでしてくれるなんて珍しいわね。」 「私の気が変わらないうちにとっとと済ませるわよ。」 モンモランシーの憎まれ口にも反応する暇など無い、ルイズは渡りに船とばかりに実行に移すことにした。 とりあえずモンモランシーは足を持ってルイズは首を持った。試しに持ち上げてみると意外と軽かった。これならいけそうだ。 「いっち、に、さん、し」 「えっほ、えっほ」 「いっち、に、さん、し」 「えっほ、えっほ」 遠くに連れて行かれるももえを見てシエスタはとりあえず大声で聞いてみることにした。 「その香水今度使わせてもらってもいいですかーー?」 「ええ、いいわよーー!」 すぐさまルイズの返事が返ってきたのであった。 「ただいまー!」翌朝、何事も無かったかのようにももえがルイズの部屋に戻ってきた。 「モンモランシーとの生活はどうしたのよ」 「いや、私より彼女のほうが香水"向け"だったから。」 「?」 「ところでさー、知ってる? エッチな気分になる香水って女の子の脇の臭いとおっさんの脇の臭いを混合させて作ってるんだよ。」 「知らないわよ、そんなこと。」 するとももえが急にルイズの脇元に鼻を近づけた。 「なっ、なな何するのよ!」 「いやー………やっぱりあんたのほうが香水向けね。マニアックな臭いがする。」 「マニアックな臭いってどんなのよ! って私の脇を指差すなぁ!! わ、私の脇はそんなに臭ってないわよ。臭ってないんだからね!」 ※おわり これまでのご愛読、ご支援ありがとうございました。 ※次回からはじまる「ゼロの使い魔死神友情フレイムデルフリンガーシルフィード香水下級生ももえサイズ」に乞うご期待!!! 前ページ次ページゼロの使い魔ももえサイズ
https://w.atwiki.jp/brewwiki/pages/659.html
キョロちゃん大脱出 【サイト名】キョロちゃんゲーマーず 【ジャンル】アクション 【課金体系】従量210円 【容量】94KB 【通信機能】なし 【簡易評価】あなたの評価点をクリック! plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. / plugin_vote2 is not found. please feed back @wiki. 2007/04/06 【使用機種】 a5503sa 【プレイ時間】 1、2時間 【評価・点数】 2/5 キョロちゃんを操作して敵(オバケ)に当たらない様に鍵→扉 に向かう横スクロールアクションゲーム チョコボールを取ると1up。 全部で20面あるが特に難しくも無くお子様仕様。 サイト別/か行/キョロちゃんゲーマーず
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7105.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 52.もう限界 ルイズが詩の代筆を頼んでから二週間が過ぎた。 世間では高等法院のリッシュモンが行方不明になったことが話題になっている。 実際ここ数日誰も彼を見ておらず、王宮は何かの事件に巻き込まれたのでは、と彼の行方を調査している。 もっとも、そんな話はすぐに忘れられるだろう。アンリエッタ姫の結婚式が近づいている。 ほとんどの国民はお祝いの準備に忙しく、普段何をしているかあんまり分からない老貴族に構っている暇なんて無いからだ。 授業が終わったルイズは自室で完成した詩を見比べていた。 4人が書いてくれた詩の中からこれは、と思った一人の詩を詠みあげる。 「火をかき消し、水を切り裂き、土を吹き飛ばす……ああ、風よ舞え。 その疾風に勝る物は無い。打ち砕け、破砕せよ。おお、素晴らしき風……」 いくら詩が作れないと言っても、書いてはいけない言葉くらいは分かる。 感謝の詩なのに、他の系統を下に見たらダメでしょ。 ため息をついてギトーの詩をゴミ箱に投げ捨てた。 「他は……大丈夫そうね」 後は自分が大勢の前でハッキリと詠みあげれば良いだけだわ。 ルイズはほっと胸をなで下ろす。人前に出るのは何の問題もない。 多少緊張するかも知れないが、それに怖じ気づくようではヴァリエールの名が泣いてしまう。 明かりを消し、ルイズは一人床に就く。 ただ詩を眺めていただけだが、いつの間にか夜も更けていた。 マーティンはコルベール先生とまた話でもしてるんでしょ。 待っていたら明日に響くルイズは早々に眠るのであった。 マーティンがルイズの部屋に戻ったのはそれから数時間後。 すっかり夜が更けてからなのは言うまでもない。 「ミス・ヴァリエール。親族の方がお見えになっていますよ」 何事も無く時間が過ぎて昼休み。ルイズが昼食を食べていると、 いつの間にか戻って来たシエスタが小走りでやって来てそう言った。 はて、とルイズは思った。何か悪いことしたかしらと。 発想が後向きなのはこれまでの人生経験によるものだが、 それでも家族が学院に来るなんて、何か不始末をやらかした時くらいのものだ。 不思議そうな顔でルイズは首をひねる。 隣のマーティンを見ると、彼は少しばかり考えてから口を開いた。 「詩について、じゃないかな?王宮から君の家族宛に手紙を送ったのかもしれない」 なるほど。ルイズは納得した。考えてみれば自分は詩が作れない。 それで様子を見に来たのかも……でも、誰が? とりあえず昼食もそこそこに、ルイズはシエスタの後を着いていく。 着いた先は学院長室。シエスタが丁寧にノックをしてドアを開ける。 自分と同じ髪色が、ルイズの目に映った。大好きな姉がそこにいた。 「こんにちは、ルイズ」 「ちいねえさま!」 ルイズはカトレアに駆け寄る。カトレアは抱きしめようと構えたが、 ルイズはその胸に飛び込まなかった。 「いつまでもねえさまに甘えてちゃいけないもの」 「手がかからなくて助かるわ。実は飛び込まれるの、ちょっと痛いのよ」 そんな姉妹の団らんは、学院長が咳払いしてようやく終わる。 カトレアはルイズを学院長の前に立たせ、自分はその横に立った。 「うんうん。仲良きことは良きことかな。さて、ミス・ヴァリエール。 実は君の姉上殿が、君を休学させたいと申し込まれてな」 「休学?」 カトレアはその疑問符に少し驚いたようにルイズを見る。 「ルイズ。エレオノール姉さまがあなたをつねりながら言った言葉、覚えてる?」 「えーと……」 忘れたくても忘れられない。あの後数日夢に出た長姉が、あの時言った言葉。 「夏期休暇の間、アカデミーに来なさいって」 「ええ。それで、あなた姫さまの結婚式で何の役に選ばれたのかしら?」 「四系統の詩を詠みあげる巫女の役よ!」 得意げにルイズは言った。カトレアはため息をついて続ける。 「あのねルイズ。結婚式は夏期休暇と一緒に始まるのは知ってるかしら?」 結婚式はニューイの月の一日から、ヴィンドボナで盛大に行われる予定だ。 当然ルイズも知っている。 「で、お祭り騒ぎはしばらく続くわね。いつ終わるかしらないけど。 あなたもトリステインから呼ばれた代表の一人になるのだから、 途中で帰ったりは出来ないんじゃないかしら。 いえ、仮に帰れたとしてもあなた、夏休みが終わるまで帰ってこないんじゃないかって。姉さまが」 確かに、帰らなかったかもしれない。アカデミーで何されるか分かったもんじゃないし。 ゲルマニアでアンリエッタと騒いでいるのはきっと楽しいだろうし。 そんなルイズに、カトレアはどこか狂気の老人を思わせる笑顔で釘を刺す。 「あなたが詩を詠みあげるって聞いた時の姉さま、おもしろかったわよ。逃げたなって。 顔を赤くして、近くにいたバーガンディ伯爵に八つ当たりしていたわ 姉さまは色々と忙しくて、アカデミーから離れられないのよ」 ルイズの顔からどんどん生気が抜けていく。姉を怒らせて良いことが起こった試しは一度も無い。 カトレアがとどめとばかりに肩を叩く。 「だからわたしが呼びに来たの」 「ちいねえさま。辞退とか、遠慮するとか……してもいいのかな?」 呆れたようにカトレアはルイズを見る。 その冷たい目は追憶の中で見た鋭い視線そのもので、 ルイズをひっと怯えさせる。 「今更そんなこと言ったら、姉さまは解体とかするかもしれないわね」 何が、とは言わなかった。ルイズからしてみればその方が怖かった。 「だ、だって、し、試験とか」 しどろもどろとカトレアに気圧されながらルイズは続ける。 学院長がそんなルイズに追い打ちをかける。 「構わんよ。どーせ君万年主席じゃし。先生方には適当に言っておくとも。 なんなら試験問題をアカデミーの方で解いてもらってもかまわんよ」 何か面倒そうだから行ってくれた方が良いんじゃね?と学院長は鼻をほじりながら考えているらしい。 教え子を守るとか、そんな気概は全くない。 「決まりね。準備を整えてすぐ行きましょう。それと使い魔のマーティンさんも呼んで来てね。 あ、アカデミーからゲルマニアへ行くから忘れ物とか無いようにね。 ドレスはお父様が準備していらっしゃるから。心配はいらないわ。 あ、それと姉さまがお付きの侍女を連れてきなさいって。示しがつかないんですって」 カトレアが早口で言った言葉は、ルイズの耳にあまり入っていない。 茫然自失なルイズの耳元でカトレアはささやいた。 シェオゴラスがしたように。 「早くしないと、姉さまが来るわよ?」 びくっとルイズの体が震える。涙目になったルイズは勢いよく返事をした。 「いいい、行きます!すぐ準備します!」 甘えないと言ったのだから、これくらいしても大丈夫よね。 カトレアはコロコロと笑って、おかしそうによろしいと言った。 「なるほど、調査ですか」 慌てたルイズに食堂から連れ出され、何が起こったのかよく分からないまま荷造りしたマーティンは、 立派な校門の外で佇むルイズの姉、カトレアから事情を聞いて大体理解した。 とりあえず替えの服をいくらか入った袋と、寂しそうにしていたデルフを背負っている。 肝心のルイズはまだ準備の途中らしい。 女の子は色々と時間がかかってしまうのだ。 「ええ。あの子の力について、エレオノール姉さまはとても関心があるみたいで」 なるほど。薬を届けた時にでも話したのだろう。 元々研究者だったマーティンはエレオノールが今どんな気持ちで妹を待っているのかとても理解出来た。 ふと嫌な光景がマーティンの脳裏によぎる。多分、大丈夫だろう。妹にそこまでしないだろう。 メイジと言っても貴族なのだ。分別は出来るはず。 研究に没頭するタムリエルのメイジは、二つに分けることができる。 丹念に時間をかけて誰にも迷惑をかけない者と、なりふり構わず自分以外の全てを実験で振り回す者だ。 圧倒的に後者が多い。メイジとはこの世で最も自己中心的な生き物のことで、 特にそれがハイエルフなら、世界は自分を中心に回っていると考える。なんてジョークがあるくらいだ。 「大丈夫です。エレオノール姉さまはそこまで人嫌いじゃありませんし、わたしよりは命の尊さを知っていますから」 自分の考えていることを見透かされ、マーティンは驚いた。 カトレアは楽しそうに笑っている。 「当たっていましたか?わたし、妙に勘がするどいみたいで」 「は、はぁ……」 「けれど、そんなことはどうでも良いんです。どうもありがとうございます。ほんとに」 「え?」 「あのわがままなルイズを助けてくださってありがとうございます。 あの子、変わりました。きっとあなたが手助けしてくれたからですわ」 その優しげな雰囲気と相まって、彼女はきっとルイズの良き姉であったに違いないとマーティンは思う。 どこか浮世離れしているが、それも病気のせいだったのだろうと。 「いえ、私はその様な……」 「ちいねえさまぁあああああああ!!」 ルイズが、もうなりふりを構う気も無いルイズが、ようやく準備を終えたらしい。 両手で大量の荷物を持って走ってくる。その後にルイズが持ちきれなかった荷物を持つシエスタの姿も見える。 「そんなに大きな声を出さなくても大丈夫よ。勝手に行ったりしないから」 カトレアのそばで立ち止まり、息を切らすルイズ。シエスタは大丈夫ですかとルイズの背中をさすっている。 「と、ところでちいねえさま。馬車とかは?」 ルイズがそう言うのも無理は無い。辺りに乗り物は無く、人が四人いるだけだ。 「いらないわよ。こっちの方が速いしね……おいで」 パチリとカトレアが指を鳴らすと、どこからか大きな叫び声がとどろいた。 雷が落ちたような音が止んでから、何かとても大きな羽音が段々と近づいてくる。 ルイズが空を見上げると、見たこともない竜がいた。 見慣れたシルフィードに比べ、明らかに大きく、爪や牙も太く禍々しい。 そしてその鱗は炎の結晶の様に赤い。それが何であるのか、ルイズは即座に理解した。 普通は何があってもそれが人に懐いたりはしない。 まるで燃えさかる炎がそのまま具現化した様な凶暴さを持つ彼らが、 人間に飼い慣らされるなんてありえないからだ。 だが、それは確かにカトレアによって呼び出された。 「病気が治ってから色々と遊びに行っているの。それでちょっと母さまのマネをしてみたのよ。 この子とは火竜山脈でおともだちになったの」 20メイルを超える火竜が大地に降り立ち咆哮する。 並の動物や人間なら気絶しかねない程の恐ろしげな叫び声だった。 実際、ルイズは意識が飛びかけた。 「静かにしてね」 カトレアが火竜に近づいてそう言うと、火竜は体をかがめ、 頭を地面に近づける。カトレアがその鼻先を撫でると、満足そうに一声吠えた。 「さ、アカデミーへ行きましょう」 ルイズとシエスタはおっかなびっくり、マーティンは驚きながら、 そしてカトレアがいつもの様子で乗り込んで、火竜は大地を離れ大空へとはばたいた。 トリスタニアの西の端に、“アカデミー”の塔はあった。その名のとおり、 魔法に対する、様々な研究を行う場所である。 昔は純粋に魔法の効果を探る研究が多かったが、 それを隠れ蓑にした不正や事件がさる高貴な公爵夫人に露見した後、 アカデミーの方針も変化し、実用的な魔法研究を行うようになった。 たとえば、火の魔法を用いて夜の王宮を明るくしようとか、 風魔法を利用して、大量に貨物を運んだりとか、 水魔法を用いて新たな薬の開発とか、そういった研究を行っている。 国力の低下が著しいトリステインは他国と比べメイジが多い。 魔法技術の改良は、家計が火の車な下級貴族に新たな商売をさせる効果もあり、 貴族の間からの評判は高い。 もちろん、ちゃんと神学の研究も行っている。そうしないとロマリアから異端のレッテルを張られてしまうからだ。 エレオノールは、このアカデミーの三十人からいる主席研究員かつアカデミーの改革に尽力した一人で、 彼女の専攻は水魔法……、妹の病を治す為に、様々な新薬の研究に従事していた。 塔の四階にある自分の研究室の机で、エレオノールは眠りかけていた。 ベッドに行く気力も無く、そのまま机に倒れかけている。 ここ数日徹夜が続いている。水魔法の研究以外、 彼女の得意系統である土魔法の方で駆り出されていた。 何でも大きな動く神像を作るための研究だそうで、 ロマリアからの依頼なのだそうだ。 末の妹のものと似た、色気のあまり感じられない研究一辺倒の部屋だ。 様々な秘薬や触媒の入ったつぼが、壁際の棚に並び、 棚の間に可愛らしい妹たちが描かれた肖像画が飾られている。 装飾らしい装飾はそれだけだった。 扉がノックされ、エレオノールは寝ぼけ眼で頭を上げた。 「どうぞ」 そう促すと、扉が開く。エレオノールと同じブロンドの髪をたなびかせ、 エレオノールより年が低そうな優しげな男が姿を見せた。 手には花束と花ビンを持っている。 婚約者のバーガンディだった。本来許可が無ければ部外者はアカデミーに入れないが、 彼女との関係は周りも良く知っているので、ほとんど顔パスで通してもらっている。 バーガンディがエレオノールの様子を見ていると、 エレオノールは不機嫌そうに唸った。 「何見てんのよ」 「いや、寝起きの君も可愛いなと思って」 「あ、そ」 「花、飾ってもいいかい?」 「好きにすれば」 顔が赤くなりそうなことに気付かれたくないエレオノールは、 ぶっきらぼうな仕草で机に突っ伏した。素っ気ない返事だったが、 バーカンディは気にせず花ビンに花をさして、エレオノールが寝ている机に置いた。 「ちゃんと寝ているのかい?」 「ん」 「ごはん食べてる?」 「ん」 「今日はちょっと話があってね」 「ん」 「もう限界なんだ」 「ん……え?」 エレオノールはイスから立ち上がってバーカンディを見る。 普段と違ってとても真剣な眼差しで自分を見ていた。 いつもこうならいいのに。少し胸がキュンと高鳴った。 バーカンディとは見合いで知り合った。 見た目はまずまずで性格も優しく地位もそこそこ。 最初は何とも思っていなかったが、 いつも優しく、研究が上手くいかずイライラしている時も体を張って慰めてくれる彼は、 エレオノールにとって初めて優しくしたいと思った男性だった。 もっとも、ヴァリエール家特有の気性が邪魔をし続けて優しくしたことなんて一度もないが。 「限界……?何が」 「君との関係だよ。もう耐えられないんだ」 ふっと、エレオノールの意識が遠のく。 なんで?少し考えたらいくらでも理由は浮かぶ。 自分に難があるのはよく分かっているし、 そんな中バーカンディが自分と婚約している理由は、 多分家柄だろうとも考えていた。 でも、それだけじゃないと思っていた。思いたかった。 だって、私は…… エレオノールは気丈にふるまい、動揺を出来るだけ隠そうとする。 体は震えているし、動悸が激しくなっている。 しかしバーカンディは気付いてはいないらしかった。 「そ、そう」 「だから、エレオノール、その」 「え、ええ、別にいいわよ。あんた以外にも男なんてたくさんいるし、 私、引く手数多ですから、べ、別に……」 自分を励ますように張り上げた声は段々と小さくなり、 最後にはぽろぽろと目から涙が落ちている。 「エレオノール?」 ようやく、バーカンディは気が付いたらしい。 しかしどうして泣いているのかは分からなかった。 「何か勘違いしてない?」 「いいえ、分かっているわ。どうせ、どうせ私なんか……」 力無くドアを開けて出て行こうとするエレオノールの腕を、バーガンディが掴む。 「な、なによ!限界なんでしょ!なんで、なんで……」 「ああ、今の関係にはもう耐えられない」 エレオノールが何か言う前に、バーガンディは彼女を力強く抱きしめた。 「ずっと一緒にいたい」 「へ?」 エレオノールは呆けた顔で、バーカンディを見る。何だかずいぶんとカッコイイ。 自分より年が低いくせに、とても頼りに出来そうな、そんな感じだった。 「妹さんの病気も治ったし、ずっと研究者を続けるわけにもいかないと思うんだ。 その……一緒に暮らさないかな?もちろん、ミスタ・ヴァリエールにお許しをいただいた上でだけど」 少し時間を置いて、頭の中で言われた言葉を繰り返して、 意味を理解したエレオノールの顔はぽん、と赤くなった。 「な、なななななな」 「えーと、いや?」 固まるエレオノールは首を横に振りたくないが、かといって縦に振るのも恥ずかしい。 黙ってぎゅっとバーガンディの胸元に顔を埋める。 「愛してるよ。エレオノール」 「……このバカンディ。もっと、こう、ちゃんとした文句を考えなさいよ」 エレオノールが顔を上げ、バーガンディと見つめ合う。 エレオノールが目を閉じると、二人の顔が段々近づいていく。 そんな時、エレオノールは辺りの騒がしさに気が付いた。 彼女がドアを開けてから腕を掴まれた。 つまり、今、エレオノールの部屋は外からまる見えなわけで。 我に返ったエレオノールはとりあえずバーガンディを突き飛ばして振り向いた。 後でビンが割れ、棚が崩れ落ちる音がしたが特に気にしない。 あの位置に劇薬は置いてないはずだ。だから大丈夫。 そこには顔を真っ赤にした愛らしい末の妹と、健康になった妹、 同僚のヴァレリー、それと見たことのない男が立っていた。 「あ、ああああ」 バーガンディの時とは別の意味で顔を赤くさせるエレオノールに、 空気の読めない子は言った。 「だ、大丈夫です姉さま!絶対、絶対誰にも言いませんから!」 照れ隠しに二、三時間ほどつねられた。 何も言わなくてもつねられたのは言うまでもない。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6637.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 46.新しい二つ名 メイジにとってあだ名や二つ名といった物はとても重要である。 というのも、メイジにとってそれらは己を一言で表す物だからだ。 それだけに不名誉な行動から付いた名はもちろん、 語呂の悪い名を好む者もいない。 当然、それはルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにも言えた。 「ゼロ」の名を持つ彼女は『虚無』の系統の使い手である。 虚無とは他の四系統の上位に位置する魔法系統で、 それに目覚めたルイズは四系統のスクウェアクラスの呪文と、 スクウェアに対応する一部の呪文が使える様になった。 今までの爆発の原因は、自身の力が大きすぎてコントロールが出来ていなかったこと。 魔法が使えるようになったルイズはもはやゼロではない。 しかし彼女は、新しいあだ名をまだ決めかねていた。 学院に戻ってから最初の授業での実習で、 ルイズは真っ直ぐに背筋を伸ばして手をあげた。 キュルケとタバサを除き、みんなの顔が真っ青になったが、 いや、これでいいかと思い直す。 「あー……ミス・ヴァリエール。熱心なのは良いことですが」 愉快なヘビ君を用いての退屈な授業に、飽きているからだ。 発火の実習を行おうとしたコルベールは言いにくそうだったが、 ルイズは満面の笑みで、教壇に近づいていく。 「いやなに、君の実力を疑うわけではないが、 魔法はいつも成功するというわけではない。 ほら、言うではないか。ドラゴンも火事で死ぬ、と」 ルイズがコルベールの目を見る。 コルベールは、こんな目をした彼女を見たことが無かった。 自信に溢れていて、それでいて威勢だけではない、 何か策のある人間の目だった。 「大丈夫です。成功しましたから」 「おいおい、ゼロのお前が成功するわけないじゃないか」 マリコルヌの声が聞こえたが、ルイズは無視して足でふいごを踏んだ。 気化した油が、円筒の中に送り込まれる。それから目をつむり、大きく深呼吸する。 まだ魔法を使える様になってから日が浅いので、イメージをしっかり頭の中で作らないと、 いつものように爆発してしまうのだ。気持ちを落ち着かせて、おもむろに円筒に杖を差し込んだ。 「ミス・ヴァリエール……おお」 コルベールが祈るようにつぶやいた。 ルイズは朗々と、可愛らしい鈴の音のような声で、呪文を詠唱した。 教室中の全員がぴきーんと緊張する。期待通り、順当に、とはいかなかった。 金属の円筒は爆発せず、杖から出た業火によって溶け始める。 気化した油が炎に引火する事によって爆発が起こる。 それによって溶けかけの円筒が破裂し、かけらが辺りに飛散していく。 生徒の方へ飛び散る円筒のかけらは、キュルケとタバサが前もって準備していた、 レビテーション等の魔法によってその周辺に落ち、固体に戻った。 生徒たちはいつもと違い「あの」爆発が起きない事を不思議がった。 ルイズが発火の魔法を止めると、自身の目の前で燃えていた円筒は冷えて固体に戻る。 もはやそれは円筒と呼べる物ではない。置かれていた机や差し込まれた杖に炎は燃え移っていなかった。 固定化がかかっているからだ。 いつもの様な爆発こそ起きなかったし、発火の呪文は成功した。しかし失敗である。 ルイズは腕を組み、そして呟いた。なんてことはない。 自分のせいではなく、固定化がかかっていない装置が悪いのだ。 「ミスタ・コルベール。この装置、溶けやすいです」 「あ、ああ……そのよう、だね。改良の余地が、あり、そうだ」 誰が発火の呪文で金属が融解すると思うだろうか。 涙を流すコルベールは生徒達に自習を言い渡し、 愉快なヘビ君だった鉄くずと共に、教室を後にした。 もし彼が正気であったなら、ルイズの力について言及するだろう。 しかし今はそれよりも、苦労して作り上げたヘビ君の弔いが先であった。 「やるじゃないあなた。あんなのは壊して正解よ」 自習の名の下に勉学に励む生徒は少ない。ルイズはその少ない方に属しているが、食堂にいた。 真面目に勉強しようとしたところ、キュルケが引っ張ってきたのだ。 「壊したくて壊したんじゃない」 むすっとした顔でルイズはクックベリーパイを食べる。 隣のタバサはハシバミ草のスープをおかわりしていた。 無表情ながら、至福の一時を過ごしているようだ。 「そう?最近ノリが良くなったと思ったのだけれど」 「どういう意味よ」 キュルケはルイズを見ておかしそうに笑っている。 そんな事をされて、ルイズが怒らないはずがない。 「だ、か、ら、なんなのよ!」 「前ならわたしが呼んだって、絶対一緒に来なかったじゃない」 ああ、とルイズは納得した。たしかにそうだ。 以前なら何があっても絶対にキュルケの誘いなんて断っただろう。 「少しばかり余裕ができてきたのかしら? だからといって調子にのっていると、私の炎があなたを包み込むかもね」 学院に戻ったキュルケは男遊びをやめて、火の系統の修練に励んでいる。 元々トライアングルであり、優れた素質があるにもかかわらず遊んでいた彼女だったが、 本気を出した事によって、その実力はスクウェアクラスに匹敵するのではないか、 と教師達の間で話題になっている。 「ふんだ。私が勝つんだから」 バチバチと火花が散るテーブルで、タバサはただ黙々と彼女専用のハシバミ料理を堪能している。 母の薬が出来て、イザベラを治せるだろう薬も手に入った。 後はそれらを飲ませてどこかへ雲隠れしよう。 叔父のことなど、母の回復の前にはどうでもよくなっているタバサは、 無表情で幸せそうに料理をたいらげている。 結局、今日のタバサの注文によって学院に残っていたハシバミ草は全て消費された。 ヴェストリの広場は普段は人気の無い場所であり、使い魔のたまり場でもある。 なぜなら、ぽかぽかした晴れの日なら、ひなたぼっこをするのに最適な場所でもあるからだ。 マーティンは最近、考え事が煮詰まると自然とここに足が向く。 ぼーっと空を見上げると、案外ヒントが浮かんでくるものだ。 広場の一角に座り空を見上げる。白い雲が浮かぶ青い空は見慣れた物だが、 いつ見ても美しく感じるものだ。その空から、何か大きい物が近づいてくる。 最近親しくなった風竜だ。 「きゅい。どうしたのね?」 「ああ、シルフィードか」 シルフィードの影に隠れてしまったマーティンは、顔を寄せる龍の頭をなでる。 彼女はマーティンの事を気に入ったらしい。人のいない場所では彼に話しかけるようになった。 「悩み事でね」 「お悩み相談なら任せるのね!シルフィそういうの得意だから!」 自信満々な顔を見て、マーティンはなにか、もの凄い不安に捕らわれた。 そもそも、今の悩み事の内の一つはシルフィードから教わった魔法が使えない事である。 単に自身の魔法力が足りていないだけか、それとも使えない類の物か。 考えたらきりが無いが、専門職メイジというのはそういう事を考えてしまうのだ。 「ああ、えーと……」 話しても大丈夫そうな悩みもあった。 「ルイズのあだ名についてね」 「あの小生意気なののあだ名?なんで?」 「ああ、何でもこの地のメイジにとって、あだ名はとても重要な物らしいんだ」 ふうん、と興味無さげにシルフィードはあくびをした。 「で、彼女は今までゼロという不名誉なあだ名を付けられていたのだけれど、 それを返上して新しい名前を付けると言い出してね。 だけどどうにもしっくり来る物が浮かばないらしくて。 それで、私にも考えて欲しいと言われたんだ」 「なるほど。なら、う~ん。『ピンクブロンド』なんてどうかしら?」 そのまますぎるよ。とマーティンは苦笑する。 「ならなら、『ちいさい』とかはどう?どう?」 「ありがとうシルフィード。気持ちだけ受け取るよ」 きゅい、とシルフィードは肩を落としてから寝そべった。 ふて寝である。 「ううむ、何が良いのだろうか」 マーティンは昔、伊達男だった。シロディールのメイジとしても優れた召喚師で、 若気の至りで快楽をつかさどる神様の信者にもなって、ブイブイいわせていた。 そんな経験から、派手な名を思いつきはするが、それらはルイズには似合わないと考えている。 「他の人の名を挙げると、微熱や雪風、疾風に炎蛇。確かギーシュ君は青銅だったか。 よくルイズに突っかかるあの恰幅の良い男子は風上だったかな」 派手すぎず、かといって目立たないわけではなく、しっかりと主張する立派な名。 それでいてルイズに似合っている物。さて、どんな物が良いか。 マーティンがぼーっと考え込んでいると、爆音が響いた。 「うん?」 場所は食堂の方角からで、その音は聞き覚えのある物だった。 ルイズの爆発音である。 「……何が起こったのだろうか」 ルイズは魔法を使えるようになって、自分に自信を持てるようになった。 あんな事があったから調子にのってはいないと思ったのだが、 マーティンは心配になり、食堂に向かう事にする。 そろそろ昼食の時間。それは調理場が最も慌ただしくなる頃で、 マルトー達料理人は学生達の料理を作っていた。食堂から爆発音がとどろいたのは、 そんな時である。 「親方、今の音って何でしょうかね?」 「おおかた、貴族のぼっちゃま方がいたずらでもしてるんだろ」 気にせず作れ、とマルトーは怒鳴った。 食堂の方はというと、ひたいに青筋を立てたルイズが腕を組んで立っていた。 その目はまさしく母や長姉譲りの物で、見る者に本能的な恐怖を感じさせる、 恐ろしい気迫を放っている。相対するのはマリコルヌ。 青ざめた顔で平謝りを繰り返しているが、ルイズは怒ったままだ。 「ももも、もう一回、聞くわ。かぜっぴき、今、なんて?」 ルイズの声は震えている。本気で怒ると声が震えるのだ。 そして、そうなったらもう誰にも止められないのだ。 「いいい、いや、わるかった。悪かったルイズ!すまなかった!」 マリコルヌは必至に謝ったが、それはあまりにも遅い。 ルイズの怒りは更に燃え広がり、マリコルヌの近くの床を爆発させる。 マリコルヌはふっとばされ、埃まみれになった。 怒りの魔女はふふふと笑う。だが、それは本来の可愛らしさなどみじんもなく、 例えば獲物を見つけた肉食動物が、今にも獲物に飛びかからんとする時に、 もし感情があれば見せると思われる顔だった。つまり、ふざけんなこのブタ野郎、ということである。 「なにが、わるかったの?」 はいつくばって謝るマリコルヌを見下ろし、ルイズは冷たい視線を送る。 マリコルヌは不思議な高揚感を感じながら、ゆっくりと口を開いた。 「君の事を不快な名で呼んでしまった。謝るよ、たのむから許してくれ」 「そう、そうね。あなたわたしにとんでもないあだなをつけたわね。 つけやがったわね、こ、このブタ。ブタやろう」 ルイズは冷たい視線で男をなじった。マリコルヌは少しばかり顔が赤くなり、 生まれてごめん、ブタごめんと謝り始める。 その様は彼女を尚更腹立たしい気持ちにさせた。 「なんか、プレイの一環って感じよねぇ」 キュルケはそんな姿を椅子に座って眺めている。 マリコルヌが段々恐怖から愉悦の方に変わっていくのが分かる。 気持ち悪いが、そういうのが好きなのもいるらしい。 ルイズはそうした性質があるに違いない、と思った。 「そんなに嫌なのかしら、さっきの名前」 ゼロよりはマシかと思ったけれど、ルイズからしてみればなにかんがえてんのよこのブタ。 ブタやろう。ということらしい。タバサはそんなことにはかまいもせず、 ハシバミ草を食べ続けている。 「『爆魔』のルイズ。そこまで悪くはないと思うのだけれど」 魔法が成功するようになったのだから『ゼロ』の名がダメになった。 なら他にルイズの特徴を、というわけでルイズをいじって遊ぶ連中は、 爆発をよく起こすから爆発魔から語呂を良くして爆魔という名を思いつき、 早速マリコルヌはからかいに来た、というわけである。 「そ、そりゃあ、ゼロと呼ばれるのは本気で嫌だったけれど、 実際その通りだから、仕方ないわよ。でも、でもね……」 バチバチッとルイズの周りから魔法の稲妻が飛び出ては消えていく。 大きいのが来る、周りにいた人々は確信して食堂の大きな机の下に隠れた。 「魔法が使えるようになったからって、それはあんまりでしょうがぁああああああああああああ!!」 ゼロと爆発は、ルイズの心にとても大きな傷を作った。 出来れば忘れたい過去である。それを名前にされたのだ。怒るのも無理はない。 涙目のルイズの心の叫びが食堂に響き渡ると共に、大きな閃光が杖先より現れる。 マーティンが来た頃には、ほとんど食堂全てが黒こげになっていた。 ふむ、と黒こげになったルイズを見つけて、マーティンは優しい口調でたずねる。 「で、ルイズ。何があったんだい?」 「わたし、悪くないもん。そこのブタが悪いんだもん」 駄々をこねる子供の様に、黒こげになりながらも恍惚とした表情で転がっているふとっちょを指差す。 おそらくちょっかいをかけられたんだろう。マーティンは優しい声で語りかけた。 「しかし、こんなことをする必要は無いよ」 ぷいっとルイズはそっぽを向いた。 ちゃんとした自信を持つと同時に、彼女に本来の性質が戻ったのかもしれない。 年頃の娘にしては少し怒りっぽいとか、そんな性質である。 背伸びをせず、普通に戻ったともいえるのだから悪いことではないが、 だからといってこんなことをして許されるはずもない。 子供を諭すのは大人の役目であり、見習いメイジが不始末をしでかしたのなら、 熟練メイジはちゃんと指導しないといけない。実際のところ、 シロディールのメイジがそんな面倒な事をするわけない。 しかしマーティンはルイズを諭し始めた。マーティンはメイジをやめて随分と経ち、 数年前までは九大神教団の司祭だった。職業柄、人を諭すのは得意な方である。 「ほら、周りを見て」 部屋の中は、雷が10回くらいは落ちたんじゃないかと思わせる惨状だった。 豪華な内装はほとんど跡形もなく破壊され、生徒用の大きな机にも生々しい傷跡が残っている。 中階のロフトには、幸い誰もいない。とはいえ、 結局ルイズは学院長から直々にお叱りを受けるのだが。 「君がしたんだ。大きな力は時に大きな危険をもたらす。 責任を持って、それを使わなくてはならないよ」 ルイズが呪文を唱えて杖を振ると、たちまち食堂は元に戻っていく。 錬金の高度な応用だったが、ルイズからすれば精神力を大量に消費する物の方が使いやすかった。 「でも、わたし、謝らないから」 少し涙目のルイズを見てマーティンはやれやれと頭を掻き、どうしたものかと思案する。 「とりあえず涙をふいて。ご飯はもう食べたのかい?」 ハンカチを渡すと、ルイズはちーんと鼻をかむ。 とりあえず彼女が落ち着くまで、マーティンは優しくなだめる事にした。 その後、ルイズの名は敵対する者全てを焦がすという意味で「黒こげのルイズ」と呼ばれたり、 怒ったら手が付けられないという意味で「怒髪天のルイズ」と呼ばれたりするようになる。 ルイズ本人はそれなりに不服だが、マーティンの説得の甲斐もあって、 そこまでひどいかんしゃくを起こしていない。 「大変なことが起こったみたいだね、マリコルヌ」 騒動が終わった後、包帯をグルグルに巻かれたマリコルヌは保健室にいた。 見舞いに来たのは彼とつるんだりつるまなかったりするギーシュである。 「おお、ギーシュじゃないか」 「そうとも、『青銅の』ギーシュ改め『人生バラ色の』ギーシュさ!」 くねくねしたきざったらしい仕草で、ギーシュは格好をつける。 最近良い事続きの彼は、素敵な笑顔でマリコルヌに笑いかけた。 マリコルヌはああとためいきをつき、ギーシュに顔を向ける。 「君が羨ましいよ。両手に花なんだから」 どうやったかは知らないが、モンモランシーとケティは彼の恋人であり、 今も関係が続いている。ギーシュの頭はどちらかといわなくてもゆるい方だが、 それを支えてあげなくちゃ、と彼女たちに思わせたらしい。 モンモランシーが主導権を握っているようだが、 ギーシュは双方を平等に愛しているそうだ。 「はっはっは。それは当然というものだよ。なんたってボクは」 ギーシュはその場できざったらしくポーズを取り、 口にくわえていたバラを手に持つ。二人の彼女が出来てからというもの、 彼の仕草は多少洗練された様に思える。それでもまだくねくねしている。 むしろこのくねくねが無くなったら、ギーシュでなくなるのかもしれない。 「グラモン家の三男、『人生バラ色の』ギーシュだからネ!」 「ああ、うん。分かった、分かったから」 少しうざったく感じながら、マリコルヌはギーシュを落ち着かせる。 「ところでギーシュ。そのバラは一体どこで買ったんだい?」 ギーシュの持っているバラは、彼がいつも持っているバラの形をした杖ではなく、 本物のバラで、真っ黒だった。ワインレッドとか濃い赤色の黒バラではなく、 純粋に真っ黒なバラである。 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、ギーシュはもったいぶりながら、 その固定化のかかった黒いバラについて話しはじめた。 「ああ、これかい?素敵だろう、ケティがくれたんだ。アルビオンローズと言ってね。 ハイランドで咲くとても珍しい品種なのだそうだ」 ボクの魅力を引き立てると思わないかい?と自慢げに語ってからギーシュは部屋を出て行った。 結局こいつはバラを自慢しに来ただけか?マリコルヌはため息を吐く。 「でも、あのルイズに焦がされたとき、なんかこう、凄い何かが体をかけめぐったような……」 これ以降、マリコルヌはルイズを本気で怒らせる事はなくなったが、 からかってルイズを怒らせ、あえて魔法を受けるようになる。 ちゃんとした彼女が出来るまでこれは繰り返され、 ルイズも結構ノリノリでやったとかやらなかったとか。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6507.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 40.スプーンのカトレア ツタが屋敷――というよりも立派な城の外壁に絡まり、 いかにも年代物という雰囲気を醸し出している。 しかしこの建物は、まだ建てられて少ししか経っていない。 カトレアの趣味から、植物に手を加えずそのまま育てさせているのだ。 日が傾いて薄暗がりと赤が混じった色に、 照らされ始める城はどこか奇妙で、フォックスは何か不安を感じてしまう。 竜はその城の上を飛んでいる。ルイズはにこやかだった。 「ちいねえさまの家って、いつ見ても変わっているわ。 それがおもしろいのだけれど」 変わりすぎだろ。とフォックスは心の中でツッコんだ。 ミス・フォンティーヌの噂はよく聞くが、その内容は病弱である事だけだ。 薄幸の美女で凄く――おっきぃ。という感じの噂がよく流れる。 まぁ、噂の元が微税官とかおっぱい大好き伯爵とかその同類だからなぁ。と、 フォックスは噂の不正確性をちゃんと理解している。 様々な情報を流して頭の固い役人を煙に巻く。 それは、彼が盗賊ギルドに入って初めに学んだ事の一つだ。 故に、火の無い所に煙は立たずといった常識を逆手に取ることも、しばしばあった。 だが、この屋敷を見る限り煙どころか夕焼けと勘違いする程の大きな炎が、 辺りを覆い尽くしている様な気がしてならない。その一部を火として見ているのではないのだろうか、と。 グレイ・フォックスは元々アンヴィルという街の伯爵である。そんな彼にとって病弱な公爵家の令嬢で、 名前を変えさせられているということが持つ意味は、 子供も生めぬ娘など意味がない。しかし殺すのは哀れだから僻地にでも置いて人目に触れさせないでおこう。 という事だ。しかし住まいを移してからも姉妹や両親との親交があった事を考えると、 名前の重さから解放しようとする親心とも思える。案外、良いお父さんなのだろうか。 しかし――とフォックスが考える。人の趣味をとやかく言うのもあれだが、 これは色々だめだろうと。ううむとフォックスが答えのない問題に唸っていると、 ルイズが声をかけた。 「どうしたの?」 「あ…いえ、なんでも。私は、どうしましょうかな」 「事情は話すから大丈夫よ。ここはちいねえさまの家だから、話の分かる人が多いわ」 逆に言えば、話の分からない視野の狭い者はここの使用人として相応しくないのだが、 そこまでルイズは分かっていない。 風竜が城の庭に降りていく。使用人の一人が駆け寄ってきた。 ルイズも見知った相手だ。彼は驚きの混じった声で竜から降りるルイズに話しかけた。 「ルイズお嬢様!?一体何があったのですか」 「薬よ!ちいねえさまはどこ?」 この屋敷で「薬」という単語が意味する事はたった一つしかない。 「なんと、ご主人様の病を治す薬が出来たと!?すぐに案内します。どうぞこちらへ!」 なるほど、本当に話が分かる。フォックスは二人の後を着いていく。 何でこんな内装なんだ。と思いながらフォックスがカトレアの屋敷を進むと、 途中でとんでもない生き物に出会った。 身の丈が2・5メイルはあるだろう体格に、 タムリエルのそれと比べても引けをとるどころか、 それらを圧倒する貫禄を持ち合わせている。 どちらかと言えばミノタウロスロードと言うべきかもしれない。 しかしまだ若いのか、全体的に黒い色だ。 ロードと呼ばれるミノタウロスは、雄牛の頭の毛が白いのだ。 「ミノタウロスゥ!?」 「使い魔よ。こんばんはラルカス」 ラルカスからミノタウロスの事を学んでいたから、 ルイズは市場でのマーティンの言葉を、冗談としてしか捉えられなかった。 流ちょうなハルケギニアの公用語が、ミノタウロスの口からわき出る。 フォックスは凄い違和感を持ちながらそれを聞いている。 あいつらはふごふご言ってるだけじゃないのか。 こんな風に話せるのか。とてつもないカルチャーショックであった。 「おお、ルイズではないか。実に…2年ぶりくらいかな?最近ご主人様が疎遠になったと嘆いていたよ」 「そうなんだ。去年の降臨祭の時、ねえさまは床に伏せっていたものね…聞いてラルカス!ちいねえさまの薬が出来たの」 ミノタウロスは目を丸くした。 「なんと!それはそれは…急いで渡さねばならんが、どうやって手に入れたのかね?」 「エルフに作ってもらったの!ちゃんと後で話すわ」 フォックスは奇異の目でラルカスを見ている。 ミノタウロスは特別にあしらえた服を着ていて、先ほどの使用人に比べて身なりは良かった。 少々不格好だが、この体格に合わせる事が難しいのは容易に理解できる。 視線に気付いたラルカスは、首をかしげて尋ねた。 「何かね?」 「知性派ミノタウロスに出会った事がないもんで、つい」 ラルカスは牛の口を開けて思い切り笑った。 大地の唸りの様に大声で笑う様は、よくそうやって笑っていることの証といえた。 「それは、そうだろうとも。わたしも彼女に呼ばれていなければ、獣のままだ」 回復の魔法がひどく弱いが、こっちの魔法って相当凄くないか? と、フレンドリーなミノタウロスを見て思う。 テファ以外でそこまで凄い部類を見たことが無いから、そんな事を考えてしまう。 タムリエルにも生物操作と呼ばれる生き物を操る魔法はあるが、 こうも上手くはいかないだろう。 「ほら、二人とも早く行くわよ!」 あ、ああ。とフォックスは返事して、隣を走るミノタウロスから襲われないか、 少々怖がりながら前に進む二人に着いていくのであった。 カトレアは、動物たちと一緒に自室にいた。 コロコロと笑いながら動物たちの世話をしている。 動物たちもベッドに座るカトレアに優しく寄り添い、 穏やかな空気が流れる。こうして動物たちと接している時間が、 カトレアは一番好きだった。こうしている間は発作でも起きない限り、 病気の事を忘れていられるからだ。 そうやって、ゆるやかに時間が流れる部屋のドアが勢いよく開く。 とても愛らしい、カトレアと同じ髪色の女の子がそこにいた。 「あら、ルイズじゃない。どうしたの? 学院はまだ夏期休暇にはなっていないでしょう?」 「ちいねえさま!」 いつもと変わらぬ声色で、ルイズはカトレアの胸に飛び込んだ。 カトレアも優しく抱き返す。 「いつまでも甘えんぼうさんなんだから。 学院を抜け出したりしてはダメでしょう?お母さまに叱られますよ」 ルイズは薬を取り出してカトレアに手渡す。 カトレアは不思議そうにその薬を見た。 ガラスのビンに入れられたそれは、 ピンク色で何の臭いもしない。 「叱られてもいいの。ちいねえさま、ねえさまの病気が治せる薬よ! エルフに作ってもらったの!」 「うそ」とカトレアはびっくりして口を開けた。 「エルフに?どうやって?」 「詳しい事は後で話すわ。だからそれを飲んでちいねえさま」 カトレアは妹の頼みを聞き、ゆっくりとその薬を飲んだ。 常に感じていた体の芯の痛みが段々と引いていき―― 彼女は激しく咳き込んだ。 「ねえさま!?」 「おお、ルイズ…いえ。大丈夫、何か体から…う」 カトレアの口から大量の血と共に、いくつかの赤い固まりが吐かれた。 彼女の嗚咽が止まり、ルイズと動物たちが泣きそうな顔でカトレアを見ている。 使用人はお付きの水メイジを呼びに走った。 ラルカスはカトレアに小振りの棒を向け、 それから何も無かったかの様に部屋の傍らに止まった。 フォックスは固まっている。血みどろ美人ってか。いや不謹慎だな。 と、頭が上手く働かないで、そんな事ばかり浮かんでしまう。肝心な所がダメなのだ。 「ねえさま!ちいねえさま!」 「体は大丈夫よ。心配しないでルイズ…ちょっと、いえ、とっても驚いたけれど」 「だって、こんなにたくさん血を吐いて…ひっく」 ルイズの目から涙がこぼれ始める。 自分のせいで大好きなねえさまが死んでしまうと思ったのだ。 カトレアは近くの布で口元を拭いて、ルイズを抱きしめた。 「効いているわ。ルイズ。わたしの可愛い小さなルイズ。大丈夫よ。 確かに効いたの。昔から言うでしょう?良く効くお薬は体に負担がかかるのよ」 「でも、でも…うぇええええん」 カトレアが子供の頃からの掛かり付け医である水のメイジが駆けつけた時、 彼女は泣いているルイズをあやしていた。自分が今仕えている主人は笑っている。 昔からよくやっていた事だ。しかし何か変な固まりが浮いた血だまりの中でそんなことをしている。 その様はもう助からない事を分かりつつ、平然を装っている様にしか見えない。 昔から体が痛んでも、カトレアは敢えて我慢する事が多かったのだ。 ゴクリと医者は喉をならし、ついに来てしまったかと、 震えながら主人の体がどういう状態か調べる。 だが嫌な汗が混じる震えは、すぐに驚きに満ちたそれに変わる。 医者は叫んだ。ただ、叫ぶ他無かった。 「なんと…まさか、な、治っております!」 年老いたメイジの言葉に、ルイズは泣き声を止めた。 カトレアは、やはりコロコロと笑った。真っ赤に染まったドレスを着て。 「薬は効いているって言ったでしょ?」 「ちいねえさまぁあああああああ!!」 今度は、うれし涙であった。 「なるほど…エルフの薬とは興味深い」 水のメイジはフォックスの説明を聞いていた。 この男が何者かは知らないが、元主人の娘の病を治す手助けをした事には変わらない。 例え悪魔の化身であったとしても、感謝の思いで一杯だった。 「ええ、詳しくはその――門外漢なので」 「構いませんとも。カトレア様の病が治った事が分かれば、ご家族の皆様もお喜びになるでしょう」 心からの笑顔だった。杞憂だったなと、フォックスはさっき作った推論を破り捨て、 水のメイジを見る。老齢のメイジはほうと一仕事が終わった様な顔だった。 「私だけでなく、様々な水のメイジがお嬢様の病気を治そうとしましたが、 さじを投げる他無かったのです。ようやく、仕事が終わった気がしておるのですよ」 「医者の不養生とはよく言ったもの。今後は自身のお体を大切にして下さい」 へんてこな頭巾を被っている割に、マトモな事を言っている相手をいぶかしむ事もなく、 医者は朗らかに笑った。 「ああ、これからはそうしますかな」 フォックスも頭巾の下で、朗らかに笑った。 美しい桃色がかった金の髪の二人は、今浴場にいる。 先ほどの件で、二人とも全身が血にまみれてしまった。 だから綺麗に体を洗っているのだ。 「それで薬をもらえたの」 ルイズの話を頷きながらカトレアは聞きながら、 椅子に座る可愛らしい妹の背中を洗っている。 「けれど、危ない事をしたのね」 「…ごめんなさい」 カトレアはルイズを背中から優しく抱きしめた。 「こんな事は言いたくないけれど、もう少し自分の事を考えて。 アルビオンで死んでしまったら、わたしはとても悲しんでいたわ」 ルイズが顔を下に向ける。カトレアは何も言わずに頭を撫でた。 「さ、お話はもうおしまい。ルイズ、こっちを向いて」 「ま、前は自分でするもん!」 ルイズが顔を真っ赤にして自分を見ているのがおもしろかったのか、 カトレアはコロコロと笑った。 「失礼なことを言ったわ。そうね、もう自分で洗えるものね」 子供扱いだったが、ルイズは姉の病気が治った事が嬉しくて、 そんな事すぐにどうでもよくなった。 ルイズは、そのままカトレアの胸に顔をうずめる。 「ねぇ、ちいねえさま」 カトレアは優しい目でルイズを見ている。 「私もちいねえさまみたいに膨らむかしら」 カトレアは吹き出し、ルイズの胸を優しく触る。 ひゃん!とルイズは悲鳴をあげた。 「素敵なあなたのことだから大丈夫。わたしよりもっと綺麗になるわ」 「ほんと?」 「せいぜいわたしもこのくらいだったわ。あなたくらいの年の頃はね」 ルイズは頭の中で思い出していた。カトレアは確か今二十四だから……、 十六の時は八年前。自分は八歳。その頃カトレアはどうだっただろう? なにぶん幼かったのでよく思い出せない。 そんな事を考えていると、気が付けばカトレアがルイズを抱きかかえて、 湯船に浸かろうとしていた。 「ね、ねえさま?」 こんなに力持ちだったかしら。と持ち上げられるルイズは不思議がった。 「そうね…これはわたしが今まで試した薬の効果もあるわね。 副作用よ。体の芯を治すには至らなかったけれど、 薬の力は、わたしの体を少しずつ変えていったわ。 けれど、これで普通の人くらいよ。あなたが軽いのよルイズ。まるで羽みたい」 ん、と抱きかかえられたルイズはそのまま湯船に入れられた。 よく見れば、カトレアの体には固そうな部分もあった。 薬で勝手に筋肉でもがついたのかしら。嫌だわそんなの。 とカトレアの柔らかい部分に自分の体を預ける。 湯船はほんのり暖かく、ルイズは良い気分になる。 カトレアが笑っていった。 「ただ、わたしのベッドで寝ている熊を持ち上げて、下に降ろしたりするくらいしかしないけれど」 「ちいねえさま。それ普通って言わないわ」 冷静にルイズは言った。カトレアは首をかしげてルイズを見る。 「違うわ、そっちが変なのよ。お母さまなんて火竜山脈でドラゴン相手に戦ったじゃない」 「それがおかしいの。普通たった一人であの山に登る人なんていないもの」 カトレアは俯き、そして両手を目に当てて泣き声を真似始めた。 「冷たいのね、わたしの可愛いルイズ。世間知らずのわたしをいじめるの?」 「そそそそ、そんなことしてない!」 やはりカトレアはコロコロと笑った。それでようやくルイズは自分が騙された事に気が付いた。 「ちいねえさま!」 「でもあり得ているじゃない。わたしにとっては、それが普通なのよ」 そう言われて抱きしめられる。自分を優しく抱いてくれるカトレアに何も言えなくなったルイズは、 その感触も手伝って、ゆっくりと頭にもやが漂い始める。暖かくて気持ちよくて、 このまま意識を手放して―― 「どうしたのルイズ。ルイズ?」 きゅう。とルイズはのぼせたようだ。 カトレアはそんな自分の妹を抱えて湯船から出る。 右手の薬指にスプーンの頭を模した指輪を嵌めたまま。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/7133.html
前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました 05.少女が見た日本の原風景(*1) 時は、ルイズと魔理沙が教室を掃除している頃まで遡る。 学院に奉公するメイドであるシエスタは、大きな鍋を抱えて水場へと向かっていた。 とはいえ、それほど急ぐ作業ではない。ようやく一段落した、とシエスタは 大きくのびをした。 今日は朝から色々と混乱することが続いている。朝食の時、二年生のテーブルに、 突然椅子を並べるように命じられた。大急ぎで倉庫から予備の椅子を持ち出し、 汚れを拭いてから並べた手際とチームワークは、賞賛されてもよいものだったと 自負している。 一体何事だろう、ご家族が授業を視察されたりするのだろうか? と思っていたが、 そこに座ったのは人間でもない生き物だったので、大層驚いた。何でも、召喚の儀式で 使い魔として呼ばれたらしい。 確かに使い魔によっては食堂まで直接食べ物を貰いに来る子達もいる。けれど それは厨房の裏口にそっと現れて、材料の残りを生のまま食べるくらいで、 貴族の横に座りナイフとフォークを使いこなして食事をするなんてのは初めてだ。 見た目も少女のように見える者達ばかり。もっとも、羽や尻尾や角が生えていたり、 背丈が七十サントほどしかなかったりと、人間でないことが一目瞭然である者も 多いのだが。 それでも、言葉が通じるのは助かった。給仕の際に言葉を交わす機会があったが、 一応普通に話が通じる者達ばかりだったのだ。もっとも仲間からは、吸血鬼から 血のように真っ紅なワインを頼まれた、とか、小さな子供から美味しそうな人間って 言われた、とか、本当なんだか冗談なんだかよく分からない話を聞かされたが。 「ねえそこのメイドさん」 突然頭上から声をかけられた。貴族様だろうか? 珍しいこともあるものだ。 魔法を使って空を飛んでいる時に、平民に声をかけるなんて。 そう思い上を見上げたシエスタは、予想とは異なる風景に首を傾げた。そこに いたのは貴族などではない。背中に羽の生えた身長七十サントほどの生き物。 先程食堂で見かけた、妖精ではないだろうか。なぜかメイド服を着ている 子達だったので、印象に残っている。その妖精が三人、空に浮かんでいる。 「ちょっと聞きたいことがあるの」 「あの、その……」 「大したことじゃないのよ」 「え……と、なんでしょう?」 三人の妖精は顔を見合わせると、ニコリと笑う。あ、可愛いなぁ、とシエスタが 思ってしまうような微笑ましさである。一体何を聞きたいんだろう。ご主人様の 部屋が分からなくなったんだろうか? 「タネのない手品って使える?」 「え?」 メイドとしてよく聞かれる質問を思い描いていたシエスタは、その質問の意味を 理解することが出来なかった。手品って一体? タネがあるから、手品ではないの だろうか。 返答に詰まる様子を見て、妖精達は納得したように頷いた。 「ほら、あれ(*2)は人間のメイドじゃなかったのよ」 「そうね。じゃあやっぱりあれは……」 「メイドって種類の妖怪だったのよ!」 三人そろって驚いたような叫び(*3)を上げると、次いで笑い出した。そしてもう、 シエスタのことなど忘れたように話ながら飛び去っていく。後に残されたシエスタは、 ただ唖然とするばかり。 「何だったんでしょう?」 手に持った鍋の重さに仕事を思い出し、気を取り直して歩き出す。 まあ、仲間との話題には十分なりそうだ。そう思いながら水場に向かう。 「え……」 水場には先客が一人いた。それ自体は、別におかしな話ではない。ここは共用の 場所なのだから。問題なのは、その人が頭から水を被っていたことだ。しかも服を 着たまま。 外見もこの辺りではあまり見かけないものだ。緑の帽子に水色の服。背負った リュックは大きく膨らんでいる。その帽子と服とリュックの上から、桶に汲んだ 水をザブリザブリと被っているのだ。季節は春とはいえ、井戸水はまだまだ冷たい はずなのに。 シエスタと目が合うとその少女は一瞬驚いたよう表情をし(*4)、それから ギクシャクと挨拶してきた。 「あ、ごめん、すぐどくから」 「いえ、それはいいんですけど……大丈夫なんですか?」 「うん、大丈夫。この服はすぐ乾くし、リュックは防水だし」 一応ちゃんと受け答えが出来るから、頭の方も大丈夫らしい、とシエスタは ほっとした。 「でもなんで水をかぶったりしてたんですか?」 「昨日から水をかぶってなかったから」 ……やっぱり頭、少しおかしいのかも。でもそうだ。朝、食堂で見かけた気がする。 もちろん貴族じゃない。ということは。 「あの……昨日の召喚で呼ばれた……人ですよね?」 「そうよ。人じゃないけど」 あっさりと言われてしまった。やっぱりそうなのか、という気持ちと、 人じゃないならなんなのか? という疑問が頭に入り乱れる。 そんな様が顔に表れたのだろうか。この奇妙な少女が先に口を開いた。 「私は河童。谷河童のにとり。この世界で知ってる人はいないだろうけどね」 そう言いながら、寂しそうな目をする。自分から選んだ道とはいえ、仲間を 全て置いて異世界に来てしまったのだから。 しかしシエスタの返答を聞いたにとりは一転、目を輝かせることになる。 「あの……知ってます」 「え? 知ってるって? 河童を? するとこの世界にも仲間が?」 「いえ、そうじゃないですけど……昔祖父から話だけ聞きました。でも……」 一方シエスタは戸惑っていた。昔祖父から聞いた話に出てきた、どこか遠くの 国に棲んでいるという生き物。とてもとても怖かった覚えがある。でも―― 「カッパって、頭にお皿があったり」 帽子を叩く。 「甲羅を背負っていたり」 振り返り、リュックを見せる。 「でも、緑のヌメヌメした肌をしてるって……」 「昔は確かにそんな格好だったねー」 技術革新なのよ、とよくわからない事を言われたが、シエスタはそれどころでは なかった。 「本当に?」 「うん」 「本当に、本当にカッパ?」 「うんうん」 「じゃあ……」 「じゃあ?」 「えー、じゃあわたし、スモウに無理矢理さそわれちゃうんですか。 シリコダマ抜かれちゃうんですか。 食べられちゃうんですか。 うわーん」 突然泣き出したメイドを前に、にとりは頭を抱えていた。どうしよう、この 思いこみの激しいメイドは。なんで人見知りの私がこんな目に遭うんだ。 泣きたいのは私だよ。 「あー、だからその、ね、大丈夫だよ、多分、うん」 あまりにも要領の得ないにとりの慰撫は、まったく効果が得られない。 シエスタが落ち着くには、一時間という時間が必要だった。 「祖父が、その父から聞いたそうなんです」 つまりわたしの曾祖父ですね、とやっと落ち着きを取り戻したシエスタが、 それでもまだ怯えつつ説明する。 なぜここまで怯えるのか。その理由は、祖父の話にあった。祖父の父はある日 突然シエスタの生まれた村に現れたという。色々あったそうだが、村の娘を 妻に娶ると、終には村に骨を埋めたそうだ。祖父の他、何人か子をもうけたのだが、 彼らはみな色々と怖い生き物の話を聞かされて育てられたらしい。その話は、 同様にその子にも、孫にも聞かされたという。 「怖い話って、さっきみたいの?」 こくり、と頷くシエスタ。 「勝手に川に遊びに行くと、河童に捕まるよ、って。捕まったら――」 ああ、それはなんて懐かしい響きだろう。にとりは嬉しくなった。昔はみな そうやって、子供を叱ったものだ。いつからだろう、人間の科学が河童は 存在しないことを証明してしまったのは。いつからだろう、河童が幻想郷にしか 棲めなくなったのは。 「他にも祖父は、わたし達に色々な話を聞かせてくれました。 不思議な、恐ろしい生き物の話です」 「うんうん、どんなの?」 「親を困らせる子供はオニに食べられちゃうぞ、とか」 「呼んだ?」 呼応する声と共に、どこからともなく小柄な少女が現れた。まるで、霧が 集まって形を成したかのように。頭には捻れた角、腰には奇妙な形の酒筒。 漂うお酒の匂いに赤ら顔。少女という点を除けばそれは、シエスタの聞いた オニの特徴と一致する。 「……悪いことをするとテングに連れてかれるぞ、とか」 「この世界にも私たちを知ってる人間がいるのは嬉しいですね」 バサリ、と羽音がすると背に翼を持った少女が降り立った。奇妙な形の靴を履き、 手には団扇を持っている。別に鼻は高くなかったが、テングなのだろう。 「…………。嘘をつくと地獄のエンマ様に舌を抜かれるぞ、とか」 「それは迷信です。私たちは白黒をつけるだけです」 振り返るといつの間にか、生真面目な雰囲気の少女が立っていた。手には 奇妙な形の棒を持っている。目が合うとその少女は、頷いて見せた。 「別に怖がる必要はありません。私は善行を積んでいる人間の味方ですから」 そんなことを言われて、それは良かった、と言い切れる人間がどれだけいると いうのだろう。 カッパにオニにテングにエンマ。まさか本当に存在するとは。 四面楚歌。 そんな気分の中、救いは空から現れた。 「あー、取り込み中のようだけど、ちょっといいか?」 その声の主は、何故か箒に腰掛けて空に浮かんでいた。 一方その頃、建物の陰では何故か残念そうな顔をしている者達もいた。 「なんで吸血鬼が出てこないのよ」 「雪女もよ。暖かいところの出身だったのかしら」 「うらめしやー。しくしく。さめざめ」 「日本古来じゃない妖怪って、この世界にも普通にいるんじゃないかね」 大きな鎌を持った女性、死神である小町の指摘に、顔を合わせる他の三人、 吸血鬼のレミリア、冬の妖怪レティ、亡霊の幽々子。そして、納得したように頷いた。 「ま、そうよね。吸血鬼ってだけで恐れてたし」 「日の下にいるから珍しがられたんじゃないの?」 そう言いつつ、レミリアの差す日傘を羨ましそうに眺める。もちろん、日傘が 特別なのではないことはレティにも解っている。こんな変哲もない日傘で弱点を 防げてしまうレミリアが特別なのだ。 「そういう貴女はどうなのよ?」 「もう大変よー、暑くて今にも倒れそう」 双方共に色白なのだが、雪女とも呼ばれるレティの顔色はそれに輪をかけて青い。 もっとも普通だったら冬以外は、身動きも出来ないはずである。 「これの所為かしらね」 レティは二の腕に刻まれたルーンに目をやった。使い魔として契約した際に刻まれた ルーンである。 「確かに妙な力は感じるわね」 「……主人と使い魔との『距離』を近づけてるみたいだね。物理的にも、精神的にも」 「あなたが言うと、それらしく聞こえるわ」(*5) 「おや、亡霊の姫は何も感じないのかい?」 小町から問われた幽々子は、首を傾げた。その首筋に、ルーンの端が見える。 「そうね~、私は妙に調子がいいわ~」 幽々子はそう言うと、その場でくるりと舞って見せた。手にはいつの間にかいつもの 扇子がある。それを見ていた他の三人は、呆れたような顔をした。 「……昼間から踊ってる幽霊っていうのも、ずいぶんと希有ね」 「そういえばあなた、あの妖怪桜はどうしたのよ」 「んー、よく分からないわ~。くるくるくる~(*6)」 彼女の肉体が妖怪桜である西行妖を封じていることは、周知の事実である。 いや、事実であった、と言うべきか。今のこの状況がどういうものなのか、誰も 分からない。本人は分かっているのだろうが、素直に話すような者でもないのは、 みな知っている。 また別の所では。 「やっぱりこの世界の月に、兎っていないんでしょうか」 「竹もないわよね」 ため息が二つ。人影は四つ。かつて幻想郷では永遠亭という名の屋敷に住んでいた 者達だ。輝夜と鈴仙の愚痴に、永琳が呆れたような声を出す。 「二人とも、妖怪と同じように恐れられたいの?」 「そういうわけじゃないけど……話題には出して欲しいじゃない」 日本最古の物語(*7)にもなっているんだし、と拗ねたような声を出す輝夜に対し、 小柄な兎耳の少女がどことなく嬉しそうに呟いた。 「私は別にいいもん」 「そりゃてゐはねー」(*8) そしてまた別の物陰では。 「夜雀ってマイナーよね。インディーズよね。わかってはいたのよ、わかってわ」 「蛍の妖怪って言われてても、固有名詞がないのは致命傷だよね」 ミスティアとリグルが互いに愚痴りあう横で、かなり徳の高かったはずの 神が二人、肩を落としていた。 「これでも一応神だというのに」 「なんだ、案外と知られてないのね。仕事してなかったの?」 「そんなことをいうのはこの口?」 かつて大和を治めた神、神奈子が、かつて諏訪湖を治めた神、諏訪子の頬を抓る。 負けじと諏訪子が神奈子の頬を抓り返す。ぐぎぎぎぎ、という呻き声が双方から あがった。 「神様らしさの欠片もないよね、今の二人」 「♪仲良きこ~とは~美しき~か~な~」 妙な調子で歌う夜雀の声は、多分に楽しげだった。 そして一際暗い物陰では。 「一度彼女の生まれた村とやらに、行ってみたいものだな」 「歴史を識る、というわけか」 九尾を生やした妖狐、藍の指摘に、奇妙な形の帽子をかぶった女性、 半人半ハクタクである慧音が頷いた。そして逆に問いを返す。 「貴女も興味があるようだが?」 「私達の世界からこの世界に時空間を渡った、ということなら、 調べておく価値はあるかと」 素っ気ない様子での言葉だったが、日傘を握る手に力が入る様は、端からでも よく分かるものだった。 「この世界の魔法だけで成したというなら、それはそれで興味があるわね」 そんな様子を気にすることなく、魔女であるパチュリーも同調するような 呟きを漏らす。 そしてもう一人、雰囲気自体を読めていない妖怪が無邪気に問いを発した。 「ねぇ、その村には食べていい人類、いる?」 「食べるな」 三人の賢き妖怪から一斉にツっこまれたルーミアは、不思議そうに首を傾げた。 「だって私たち、妖怪だし。怖がってもらわないと、れぞんでーとるがー」 「……まあ、脅かすだけならな」 「うん、努力する」 ニコニコと笑うルーミアに、三人は顔を見合わせため息をついた。とはいっても、 確かにルーミアの言うことには一理ある。この世界は確かに未知なる者への 恐れがまだ色濃く残っている。だからといってそれに安心してては、以前の世界の ように進歩する人間の技術によって、またもや自分たちの居場所がなくなってしまう。 それは避けなければならない。 とはいっても、この地を追われるようなことになっては元も子もない。幻想郷の ような人間と妖怪たちの関係を、どうすればこの地で築くことができるか。 やはりまずは、普通の、貴族ではない人間達の村を見てみなければ。さらには、 妖怪が受け入れられる下地があると、なおのことよい。 こうして一部の妖怪達には、シエスタという存在がクローズアップされたのであった。(*9) ちなみにそんな騒動を全く気にせず、独自の道を行く者達もいる。 例えば空では。 「春ですね~」 リリー・ホワイトが満面の笑みを浮かべて、春の日差しの中をふわふわと漂っていた。 また食堂では。 「あら、あなたは少し艶美ね」(*10) 昼食の準備をするメイド達の奇異の視線を気にすることもなく、アリスは アルヴィーズの人形達を相手にブツブツと呟いていた。 人影のない裏庭では。 「二百九十九、三百、三百一……」 両手に構えた一対の刀を、淡々と型通りに振るう妖夢の姿があった。 さらに学院の敷地の壁際では。 「ここなんてよさそうね」 幽香が花壇を作る場所を念入りに選定していた。 図書室の入り口では(*11)。 「わー……」 三十メートルはあろうかという本棚を見上げて、小悪魔は感嘆のような呟きを 漏らしていた。 食堂の裏口にほど近い鶏小屋では。 「へー、鶏小屋ってホントはこんななんだ」 姉と色違いの日傘を差したフランドールが、興味深げに鶏たちを眺めていた。 そしてひときわ高い塔の屋根の上では、仰向けになった藤原妹紅が空を 見上げていた。 「生まれ生まれ生まれ生まれて生の始めに暗く、 死に死に死に、死んで死の終わりに冥し……」 その口から漏れるのは、昔の僧侶の言葉。 その言葉にずいぶんと救われたこともあった。 「……とはいうもののねぇ」 目の前に広がる大空を、白い物が横切る。白い竜だ。背に誰かを乗せたまま、 遠ざかっていく。その先に広がるのは広大な平野。その遙か先に山脈が見える。 幻想郷では、そして日本では見ることのなかった風景だ。 あの白い竜は、そういえば昨日見た気がする。誰かの使い魔だったろうか。 そして、自分もまた、使い魔だ。自分の主人となった少女は、二日酔いに 耐えかねて医務室に行ってしまった。だから妖怪たちはみな暇を持て余して、 メイドにちょっかいを出したり出さなかったりしている。 その妖怪たちの一角に不倶戴天の敵の姿を見つけたものの、妹紅は何かを 追い出すように目を閉じ、大空に向き直った。そしてボソリと言葉を漏らした。 「なぜ私はここにいるんだろう」 今回のこの出来事は、自分に科せられた呪いから解き放たれる可能性があった。 すなわち、不死の呪い。幻想郷が――幻想がなくなれば、自分にかかっている 不死という幻想もまた消え失せたのではないか。 しかし今、自分はこうしてここにいる。今更死が怖くなったとでもいうのだろうか。 それとも……。 勢いをつけ上半身を起こす。ちょうど昼を知らせる鐘が鳴った。眼下にいる 妖怪たちも顔を上げる。そして妹紅と輝夜の目があった。しかしそれも一瞬のこと。 輝夜は口元を袖で隠すと何事か楽しそうに笑い、彼女の仲間とともに歩き出した。 妹紅も立ち上がると両手をポケットに突っ込み、ふわりと浮き上がった。 食堂に向かって移動しながら妹紅は、この世界で最初の殺し合いはいつにするかな、 と普通の人間にとっては物騒なことを――そして彼女とその敵にとってはいつもの ことを考えていた。 一難去ってまた一難とはこのことだろうか、とシエスタは不安げに空を見上げた。 ランチボックスを作らせ、鍋まで持って行ったマリサという名前の人間の使い魔の 最後の言葉が、不安だったからだ。 「死ぬまでには返すぜ」 これは果たして本当に冗談なんだろうか? もっとも今のシエスタにそんなことを気にしている暇はない。昼食の時間である。 今回は二年生もちゃんと席に着いているし、使い魔となった妖怪達もいるので、 かなり忙しい。それに朝と違い、生徒達の顔色もかなりよく、普通に食事を 採っている。話を漏れ聞くに、二日酔いを水の秘薬でなんとかしたらしい。 いいなぁ、あれってとても高いんですよね。などと思いながらデザートのケーキを 配っていく。トレイが空になり、厨房から追加のケーキを取って戻ってくると、食堂の 雰囲気が一転していた。 妙に緊迫した空気。多くの生徒がある一点を注目している。その視線の先には、 一人の男子生徒と、生徒ではない少女。そして、少女の傍らには妖精よりも 小さい人形が浮いている。 「女性を泣かすのが、貴族だとでも言うつもりなの?」 少女の詰問するかのような口調に、男子生徒は助けを求めるかのように周りを 見回す。シエスタとも一瞬目が合い、そこで彼女はその男子生徒のことを 思い出した。たしか、ギーシュという名前だっただろうか。その独特な服装と 本人の言動は、よくメイド達の間でも話題にあがる(*12)。 「ねぇ、何があったの?」 「ううん、分からないわ」 シエスタは近くに同僚のメイドを見つけると小声で問いかけたが、彼女も配膳に 気を取られていて、状況がつかめていないようだ。 「どうやら彼が、二股をかけていたようですね」 突然背後から声がかかった。 「へぇ、そうなんですか……っ!?」 振り返ったシエスタは息を飲んだ。そこにいたのは先程会ったばかりの天狗 だったのだから。 その天狗はシエスタの反応に何故か笑みを浮かべる(*13)と、相対している 少年と少女を指差した。正確には、その傍に浮いている、人形を。 「ほら、あの人形が持っている香水の瓶が見えますか?」 何故かこの天狗は、状況の解説をしてくれるらしい。二人のメイドが恐る恐る 頷くと、天狗の少女はどこか自慢げに話し始めた。 あの少年は、香水の瓶の持ち主である二年生の少女と付き合っていたが、 それを隠して別の一年生の少女と馬で遠出をしたらしい。しかし、香水の瓶が 少年の懐から転げ落ちたのを彼の使い魔が見つけてしまったために、その秘め 事が双方にばれてしまったのだ。その使い魔というのが、今少年と相対している あの少女なのだという。 事情は大体分かった。だからあの二年生の少女は怒ったような顔で、一年生の 少女は泣きそうな顔で、少年を見ているのだろう。 しかし、そこにはもう一人少女が居る。 「でもなんで使い魔が?」 「それも怒って?」 メイド同士顔を見合わせると、天狗は肩をすくめた。 「まあ、彼女はまだ成ってから若い(*14)ですからね。 それより、あの三人の貴族について教えて貰えませんか?」 いつの間にか天狗は手に持ったメモ帳を広げると、二人のメイドに顔を近づける。 彼女たちは目を白黒させて何事かと問いかけた。曰く、取材らしい。取材とは なんだろう? そうこうしている間にも事態は進行している。 「くっ、くるな!」 問題の渦中である少年、ギーシュはそう叫ぶなり、自らの杖を振るった。 青銅の花びらが一枚散ったかと思うと、すぐさま形を変える。そこに現れたのは、 身長一メイル半はある青銅の騎士。生徒達からは歓声が、妖怪達は感心したような 声が上がる。 しかし彼の使い魔たる少女、アリスは淡々とした様子で呟いた。 「それがあなたの人形なのね」 「そうさ。そんな小さな人形が、このワルキューレに敵うものか」 「あら、私の人形がこれだけなんて、誰が言ったかしら」 そう言うなり腕を高く上げ、パチリと指を鳴らした。 しかし別段その場に変化はない。 「何も起きないじゃ――」 ギーシュが言いかけた時に、周囲から声が上がった。歓声とも悲鳴ともつかぬ声。 「夜でもないのに」 「初めて見たわ」 「壊れたのか?」 「なんで人形が突然」 人形、の声にギクリと顔を向けたギーシュは、その光景に青ざめた。この食堂の 名前ともなっているアルヴィーズの人形。それが列を成して歩いてくるのだ。こちらを 目指して――おそらくは、自分を目指して。 そして思い出す。彼の使い魔となった少女の二つ名を。 「そんな人形に何が出来るっていうんだ!」 あからさまな強がりだ。額に浮いた冷や汗がそれを物語る。とはいっても、 それは真実でもある。アルヴィーズの人形は夜に食堂で踊るくらいしかできない。 荒事などもっての他だ。一応、芸術品なのだから。 それでもアリスは涼しい顔で応えた。 「そうね、大したことは出来ないわ。 でも、ご主人様を縛り上げて部屋に連れて行くくらいは可能よ」 「使い魔が主人にそんなことをしていいと思っているのか!」 「もちろんよ。使い魔としては、ご主人様に立派になってもらわないとね。 例えば女性の扱いとか」 そのためなら、何でもするわよ、と『何でも』を強調してアリスは言うが、その何でもが 艶っぽいことではないことはギーシュにもよく分かっている。むしろその正逆のことだ。 そんなことは認められない。色々な意味で。 それに、まだ終わったわけではない。 ギーシュを遠巻きにするアルヴィーズの人形達。その包囲が完了する前にギーシュは さらに杖を振るい、六体のワルキューレを作り出した。 計七体のワルキューレで自分の周りを隙間無く取り囲む。 「いくら数が多くても、このワルキューレ達には敵うまい。素直に諦めたまえ」 みっともないが、持久戦だ。こうしていれば、そのうち教師か誰かが助けに来てくれる だろう。なにしろ自分は主人であり、彼女は使い魔なのだから。 それにもし攻撃を仕掛けてきたとしたら、それこそしめたものだ。力の違いというものを 見せつけてやる。 しかしアルヴィーズの人形達は、それを気にした様子もなく包囲を狭めてくる。 もしここでギーシュが攻勢に転じていれば、結果は違っただろう。しかしギーシュには 女性相手に攻撃を仕掛けるという考えはなかった。 そしてその考えは、アリスの予想通りのものでもある。 「いいえ、私の勝ちよ」 アルヴィーズの人形達を従え、アリスは絶対の自信を見せて言い切った。ギーシュが 不安を覚えるほどに。その不安の色が顔に出たのか、アリスは口元に笑みを浮かべ 言葉を続けた。 「ねえあなた、この子達って、学院の備品よね」 「そうさ」 「壊したら、誰が弁償するのかしら」 「え゛?」 ギーシュの思考が一瞬止まる。もしワルキューレがこれを壊したら、間違いなく僕の 責任だ。いやでも人形を操っているのはアリスじゃないか。けどアリスは僕の使い魔だ。 そうすると……やっぱり僕が弁償するのか? ギーシュの頭の中が、弁償することになった時の金額で埋まったその隙を狙ったかの ように――いや、実際その隙を狙い逃さず、アリスは再び指を鳴らした。 一斉に突撃してくるアルヴィーズの人形。しかしギーシュは、反応することができなかった。 もしギーシュに覚悟を決める時間があったなら(*15)、こんな無様な真似はせず、 名誉のためにアルヴィーズの人形を壊す事を選んでいただろう。そうさせないだけの 言葉であり、タイミングであった(*16)。 「ひ、卑怯だぞ!」 杖を取り上げられ、いつの間にか用意されていた縄でグルグルに巻き上げられ ながらの叫びに、アリスは鼻を鳴らして応じた。 「ご主人様のためには、何でもするって言ったはずよ」 「くっ、使い魔が主人に楯突くなんて許されると思ってるのか」 「楯突く? とんでもない。これはご主人様のためを思っての事よ」 そして自分の主人に背を向けると、この騒ぎの当事者とも言える一人の少女に 声をかけた。 「ちょっとよろしいかしら?」 「なによっ!」 モンモランシーは不快だった。これは、自分とギーシュとケティという一年生の間の 問題だったはずだ。何で使い魔風情が貴族間の問題に口を挟むのか。その上、 どうして自分に声をかけるのか。 「私のご主人様の教育を是非手伝って欲しいのよ」 「教育ですって?」 思わず眉がつり上がった。一体何を言い出すのだろう、この使い魔は。 その後ろでは、ギーシュが顔色を白く染めている。 「彼には、私たち使い魔に相応しい主人となるような、勉強が必要だと思うのよ」 「…………」 「例えば女性に対する気遣いとか」 その点に関してのみ言えば、異論はない。ギーシュの女癖の悪さは、いつか 手厳しく直させる必要があると思っていたのだ。しかし―― 「し、仕方ないじゃないか」 突然縛られたままのギーシュが、言い訳を叫びだした。曰く、ケティとは 遠乗りしただけで、それ以上は何もない、だの、本当に大切に思っているのは モンモランシー一人だ、だの。 本人達がこの場にいるのにそのような発言をしてしまうのは、ある意味大物 なのかもしれない。それとも、モンモランシーがいるからこその台詞だったのか。 しかしここには、当事者以外の人間も多くいる。例えば、ギーシュの女性遍歴を 快く思ってない男子生徒とか。ギーシュのことをちょっといい男かもと思って 見ていた女子生徒とか。 「そもそも、二股をかけるのが問題じゃないのか?」 「私に色目を使ってたのは何だったのかしら」 生徒たちからの揶揄するような問いかけにギーシュは、焦ったように答えた。 「それは、薔薇は多くの女性を楽しませなければならないと――ヒーッ」 主に二人の女性から立ち上がる気配に、ギーシュは息を飲んだ。そして、 自分の発言が最悪の事態に繋がったしまったことを理解した。 「そうね、この人の性根はいつか叩き直さなければいけないと思っていたのよ」 「ご理解いただけて恐縮ですわ、ミス……」 「モンモランシーよ。モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ」 「私はアリス・マーガトロイドよ。よろしくお願いするわ」 そして溢れた笑い声の二重奏はまるで地の底から響いてくるかのようであり、 男子生徒は寒気を押さえられなかった。例えそれがギーシュの自業自得だったとは しても。心の中でみな、ギーシュの冥福を祈った。 そして、心の中だけに留めない連中も、この場には居る。 静かに流れ出す音楽。三人の騒霊が奏でる悲しげな旋律に乗って歌われる 歌詞は、市場に売られていく子牛のことを歌ったもの(*17)であり、ぐるぐる巻きの まま二人の少女に引きずられてこの場を去ろうとしている少年に、実に似合った ものだった。 もっともその音楽と歌声は唐突に途切れる。顔を赤く、あるいは青く染めた 四人の生徒が、その演奏者である自分の使い魔の襟首を掴み、あるいは肩に 担いで、逃げるかのようにアルヴィーズの食堂を出て行ってしまったからだ。 こうしてようやく、いつものようなざわめきが少しずつ食堂に戻ってきた。 「予想以上にいい図が撮れましたね」 黒い小さな四角い箱を眼前に構え覗き込んだ後で、射命丸文は誰にともなく 呟いた。もっともその声は周囲のざわめきに溶けて消え、誰の耳にも届かなかったが。 なにしろこの出来事を見守っていた生徒と先生と使い魔にとって、この出来事は 様々な意味があったのだから。 「え、あんなことやっちゃっていいの?」 いわゆる化け猫であるところの橙は、困った風情で顔を撫でた。猫を被る、では ないが、もう少しこういった直接的な行動は控えておくものだと思っていたのだ。 別に主人に対して反旗を翻そうというわけではない。ただ自分の有用性という ものを、じっくりと認めさせるつもりでいたのだ。最初から自分の手の内全てを見せる のは愚か者だ、という位の判断は、橙でもできる(*18)。 ただそこら辺は周囲とのバランスが重要だ。方針を見直さないといけないかな、 と思いつつ、唖然とした表情でギーシュ達が消えていった通路を凝視している自分の 主人を見上げ、そして主人の皿から魚を一欠片失敬した。 ……実に美味い。こんな食事が狩りをしないでも毎回食べれるというなら、しばらく 使い魔をやることに、まったく異論はない。 一方彼らの頭上、二階席から経緯を見守っていた教師達は、安心したように席に 座り込んだ。やれやれ、と杖をテーブルに置く者もいる。 「どうなることかと思いましたが、穏便な結果に終わって何よりですな」 「まったくです」 幾人もの教師が首を縦に振る。一時は魔法を使っての介入も考えていただけに、 平和理に済んだことは喜ばしい。何しろグラモン家といえば有名な軍事系の家系。 モンモランシ家といえば、契約の精霊との連絡を担っていた家系。この二家の子息 子女が、公の場で争い毎を始めたのだ。しかも内容は色恋沙汰。どちらかに味方して 相手側から恨まれることになったら、大変なことになるだろう。 それが、ギーシュの召喚した使い魔のお陰で、主人と使い魔の問題という形で決着 したのだ(*19)。実に喜ばしい。 「でもあの使い魔は、主人のためならなんでもやる、と言ってましたよね」 「ああ。実に健気なもんじゃないか」 「じゃあ、教師に敵対するのが主人のためになると判断したら……」 その場にあった人形とはいえ、あれだけの数を同時に操る者は、今まで見たことが ない。しかも明らかに術者本人の死角となる所でも、まるで見えているかのように動いて いた。今も、通路から戻ってきた人形達が、元々自分たちがいた場所に戻ろうとしている 様子が見える。もちろんこの場に、あの使い魔はいない。 内容からすれば土の系統だとは思われるが、どれほどの技量を持っているのだろうか。 土のトライアングルに相当する位だろうか。もしかしたら、スクウェアに匹敵するかも しれない。そんな者に自分たちが対抗できるのだろうか。 「そうならないように、精々努力しようじゃないか」 その言葉に、みな頷く。平穏無事に済めば、それに越したことはないのだから(*20)。 「少々あざといとはいえ、あれも一つの方法か」 慧音は顔をしかめながらも頷いた。自分たち妖怪の類と、貴族たちの間で結ばれた 主従関係。これをどの程度活用し、適用していくか、ということは、妖怪達にとって 悩ましいところである。なにしろ妖怪は、取り決めとか盟約とかその手の言葉をとても 律儀に守る生き物なのだ(*21)。 ただ単に自分のやりかたを押しつける、ということは、使い魔として好ましくはない だろう。寺小屋のように、頭突きでいうことを聞かせるなど、以ての外だ。 「まあ、主人のためを想って、ということには違いがないからな」 少々自分の思惑が混ざっていたとはいえ、アリスがやったような方法もある、という ことだ。あとはそれをいかに主人に納得させるか、だが…… 前ページ次ページ東方のキャラたちがルイズたちに召喚されました
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/8058.html
前ページ次ページゼロみたいな虚無みたいな ――ザッ、ザッ…… ルイズは無言で中庭の掃き掃除をしている。 「………」 ふと視線を向けた先では、タバサが2人羽織のようにシルフィードの背後から前方に手を回す形で箒を使っている。 「それで掃除できるの?」 「だってシルフィ、お姉様大好きなのね~!」 と今度はシルフィードが体の向きを変えてタバサにしがみついた。 「あんた達本当に女同士?」 あまりの雰囲気にそうツッコミを入れたルイズなど眼中に無い様子でタバサはシルフィードの頬をそっと撫で、 「……シルフィード……嬉しい……」 その時、何やら棒状の物体がタバサのスカートの前部を押し上げ始めた。 「!! ちょっ、ちょっと、そっ、それ何何何!?」 慌ててタバサからシルフィードを引き剥がしたルイズだったが、 「あー、ごめーん。箒が……」 「……いいよ……」 あぽろの使っていた箒の柄が、誤ってタバサの股の間に突っ込まれていたのだった。 「アポローっ!」 何となくいづらくなってその場から逃げた後、ルイズは地面に座り込んで大きく息を吐く。 「はー……」 「びっくりしたね」 能天気にもそんな発言をしたあぽろの頬を、ルイズはひとしきり引っ張るのだった。 「いひゃ……、いひゃ……い」 ようやく頬引っ張りの仕置きから解放されたあぽろは頬をさすりつつ、 「そうだルイズちゃん、タバサちゃんとシルフィードちゃんの指見た?」 「指?」 「うんっ、ほらほら」 そう言いつつあぽろが指差した先では、茂みの向こうでタバサ・シルフィードが抱き合いつつ何やら話していた。 あぽろの言葉通り、2人の指にはペアになった指輪が光っている。 「ねっねっ、見た?」 「うん……」 「あれ、先週の虚無の曜日に買ったんだって」 「ふーん」 「私も何か欲しーなー」 「ふーん。自分で買えば?」 そう言ってその場を後にしようとするルイズを追い、あぽろは彼女の腕に手を回す。 「じゃあ2人で買いに行こっか。で、交換!」 「……アポロ」 「はい?」 「今クラスで友達同士大切な物を交換し合ったり揃いの物買うの流行ってるけど、私はしないわよ」 「何でー? みんなしてるよ?」 手をばたつかせて不満げに訴えたあぽろだったが、ルイズはつれない態度で、 「みんながしてるからするなんて、心の弱い人間がする事よ。さ、帰るわよ」 (でも、でも……、ルイズちゃんの持ち物欲しいんだもん。どうしても駄目ならお揃いの物買うのっ) 「ルイズちゃんっ!」 その夜、寮の自室であぽろは満面の笑みと共にルイズに声をかけた。 「何?」 ルイズが読んでいた本から顔を上げると、あぽろはルイズのストッキング片手にルイズのベッドに歩み寄ってきていた。 「これルイズちゃんが今日穿いてたストッキング?」 「うん、そこ置いといて」 そのまま視線を本に戻したルイズだったが、何やら聞こえてきた物音を不審に感じてあぽろの方に向き直る。 するとそこにいたあぽろはルイズのストッキングを穿いて、自分が脱いだニーソックスをルイズに差し出していた。 「こらああああ! 何してんのよおお!!」 「ルイズちゃんは私の穿いてーっ」 「こんな萌え萌えソックス穿けないわよーっ!!」 「酷~い、ニーソックスだよー」 手渡されたニーソックスを投げ返したルイズだったが、あぽろはまったくめげた様子も無く頭に投げ返されたニーソックスが乗ったまま、 「あ、じゃあ何か買いに行く?」 「行かないってば。……とにかくそういうのしないの。それにしつこいの大っ嫌い」 「ふんだ……。ふーんだ、ケチっ。ルイズちゃんなんて寝てる時凄い歯ぎしりするし、いつも部屋にパンツ見える格好でいるしっ! (中学生)のくせにレースだらけのパンツ穿いて……えっち!」 「ほっときなさいよっ!」 赤面して反論したルイズに、あぽろはルイズのストッキングを手にしたまま涙を流し始める。 「ルイズちゃんと1番仲いいんだよって……、クラスの子に自慢したいんだもんっ! ルイズちゃん大好きなんだもん! ……もう帰るっ!」 そしてそのままあぽろは部屋を飛び出していってしまった。 「どこにっ!?」 残されたルイズは赤面したまま扉の向こうを眺め、 「……もう、最初からそう言いなさいよ」 魔法学院を取り巻く夜の森を2つの月が照らしている。 「うう……、ぐす……、みっ、道迷っちゃった。ママー」 その森の中をあぽろは1人泣きじゃくりつつさまよい歩いていた。 「私……、このままここで暮らす事になったりして」 森の中での野宿生活を想像しあぽろは思わず震えあがるが、それも一瞬の事、 「その方がいいわ。もうルイズちゃんなんて大っ嫌いだもんっ」 口ではそう言ってみたものの、裏腹にあぽろの目にはみるみるうちに涙が溜まっていった。 (嘘だよ……。本当は今だって凄く楽しいし満足してたの。ルイズちゃんと毎日一緒にいられるだけでよかったの。それなのに私、いつの間にかもっともっとってルイズちゃんに要求ばかりしてた。ルイズちゃんの気持ち無視してたよ……。やっぱりちゃんと謝るっ) 「ルイズちゃ……」 そう言いつつ学院に戻ろうとあぽろが回れ右をした時、 「何?」 あぽろの目の前には、汗だくになったルイズが険しい表情であぽろの肩をつかんでいた。 そしてルイズは、あぽろの頭を叩くと胸倉をつかんで睨みつける。 「あう」 「いつまでほっつき歩いてんのよ!」 「ごめんなさい……」 「まあ無事でよかったけど、あんまり心配させるんじゃないわよ」 そう言ってルイズは元来た道を戻り始めた。 (あ、ルイズちゃん凄い汗……) あぽろはルイズがどれだけ必死で自分の事を探していたかを悟り、思わず抱きつくのだった。 「ルイズちゃ~ん」 「なっ何よ、暑いのに」 「ごめんね、ごめんなさい(私の事探してくれてたんだ……)」 そして抱きついたまま学園への道を行く2人。 「ルイズちゃ~ん、ごめんねー」 「わかったから放しなさいよ……」 そんな2人を2つの月が優しく照らしていた。 (大好きだよーっ) 「いー天気だー」 翌朝、あぽろはそう言いつつルイズの部屋の窓を勢いよく全開にした。 「まだ起きるのに10分早いわよ……」 ベッドの中ではルイズがまだ布団の中で蠢いている。 「だってー、今日から衣替えの日だよー♪ 張り切っちゃうっ。さあっ、ルイズちゃんも起きてっ」 「はいはい」 そう言いつつ、ルイズはようやく布団から這い出して着替え始める。 ルイズが着替えを終えると、ふと思い出したようにあぽろに向かって手招きする。 「あ、そうだわ。アポロ、こっち来て。あげるわ」 あぽろの襟につい先程まで耳に着けられていたルイズのピアスが付けられた。 「交換よ。あんたのピアスちょうだい。私の制服の襟に付けるから」 そう言って自分の襟をつかんで見せたルイズだったが、あぽろは体を振るわせるばかりで微動だにしない。 「……何よ」 「う、嬉しーっ!」 叫びと共にルイズに飛びかかり抱きつくあぽろ。 「ルイズちゃーん!」 「もーっ、暑苦しいーっ!」 初夏のトリステイン魔法学院に2人の声が響いていた。 前ページ次ページゼロみたいな虚無みたいな
https://w.atwiki.jp/nekodaruma/pages/33.html
☆犬コロちゃん2話 犬コロちゃんとカラス 犬コロちゃんこと子犬のトムは散歩が大好き今日も寒い中 散歩をしていたらカラスがやってきて小石をおとしていきました。 小石はトムにヒット! 起こったトムはわんわんほえます。 カラスはカーカー鳴くばかり平気な顔 家に帰ったトムはお正月なのでごはんをお代わりしました。 でもあとになってげーと吐いたのでさなちゃんから叱られたのでした。
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/6530.html
前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア 42.シェオゴラス 小雨が降る暗い森の中、ルイズはカトレアから離れた所に現れた。 カトレアは日記帳を持ってひたすら森の奥へと歩いている。 時折激しく咳き込みながら、ランランと目を輝かせているのがルイズには何故か分かった。 辺りは強い風が吹き、ルイズは自分の視界すら確保出来ないというのに、 カトレアは明かりも点けずにずんずん前へ進んでいく。その顔は歓喜に満ちていて、 精神力が具現化したオーラが彼女の周りを漂っている。 青にも茶色にも見えるそれが舞う。荒れ狂う嵐のようなそれらをまとう姉はとても怖かった。 「獣って、どこにいるのかしら。ああ、もうここで倒れるのも悪くないわね。 だめ、だめよカトレア。こんな所じゃすぐに見つかってしまうわ…」 こわい。このちいねえさまも、今のちいねえさまも。 いつものちいねえさまがどこにもいない。こわい。 ルイズはおっかなびっくり着いて行くことにした。 ここで戻っても意味がないと頭で分かっているからだ。 カトレアが咳と共に吐いた血を見てルイズは後を追う。 カトレアの姿は、彼女の発するぼんやりした光で輪郭だけが見える。 しかし体の状態は良さそうには見えない。 しきりに体を掻くカトレアから、たくさんの皮膚がこぼれているからだ。 「やっと、やっと終わるわ。嗚呼、どうかあの世では作り笑いせず、 真っ当に暮らせる程度の幸せを得られますように! 姉さま用のお手紙も残したし、ルイズがこれを知るのはしばらく先でしょうし、 父さまはわたしに無関心で、母さまは何を考えてわたしを生かしているのか……」 膝をついて口から何かをはき出す音が辺りに響いた。 大量の血が流れる。カトレアは笑った。 「凄いわ。記録更新かしら…でも変ね。ひどく頭が冴えて、いつも以上に元気なのよ。 だからわたしの後に誰かいるのも分かっているの」 ビクリとルイズが震え上がる。隠れていた木が、錬金の魔法で倒された。 カトレアは笑っていた。とても怖く笑っていた。 「こんな時まで幻覚だなんて…あれ、もしかしてルイズ?」 夜中でよく見えないせいか、髪の色だけでカトレアは判断した。 夜で、ほとんど光の無い森の中でも、その髪色はそう間違えたりはしない。 「ち、ちいねえさま」 「しばらくぶりね。ごめんね。今は遊んであげられないの」 思い出の中のカトレアは、いつもルイズと同じ髪色だった。 しかしそれは、カトレアが痛みを苦にしなくなってからの色だったのだ。 八年前の事を思い出せなかったルイズは、それが普通の髪色だと思って過ごしていた。 カトレアはニコリと微笑んだ。 「危ないわよ。早く帰りなさい」 「ね、ねえさまも、いっしょに…」 微笑んだまま、カトレアはルイズの目を真っ直ぐ睨んだ。 「ねぇ、あんたルイズじゃないわよね?けど幻覚でもなさそうだわ。 あんた誰?わたしに何がしたくてここにいるの?」 微笑みが消える。ルイズはただただ怖がった。 「違うの、わたしはルイズよ!ちいねえさま!!」 「黙れ!消えなさい。わたしの杖があなたに向かない内に… いいえ、いいわ。ついて来たいなら来なさいな。風邪、引かないように気を付けてね」 そのまま背を向けて、また森の奥へと進む。ルイズはその後に続いた。 振り向きもせずにカトレアがルイズに言った。 「あんたね。わたしの妹に似ているのよ。 でもね、あの子そんなにしっかりした目をしてないわ。 誰かが周りにいないと困るのにかんしゃく持ちでね。 わたしにそっくりよ。だからこの世で一番嫌いなの」 「かんしゃく…ちいねえさまも持っていたの?」 自分が落ちこぼれだという自覚はずっとあった。 もちろんそれを表に出したりはしないが、 優秀な姉達に比べて何も出来ないと錯覚し、 時には使用人たちの言動を目で制した事もあった。 そしてその後に激しく後悔する。そんな自分がルイズは嫌いだった。 「ええ、とってもね。母さまに酷いことたくさん言ったし、 エレオノール姉さまを敢えて困らせたりもしたわね… でもルイズには出来なかったわ。わたしと同じだから。 わたしは体が動かない。あの子は魔法が使えない。 出来損ない同士よ。ヴァリエールの血なのに。 馬鹿なお父さまが、下級貴族の娘と結婚するから! それで三人の娘に負担が掛かっているのに知らんぷり。 あんな奴死ねばいいんだわ!」 ひとしきり叫んでから、カトレアはまた激しく咳き込んで血を吐いた。 座り込んで、苦虫を噛みつぶした様な顔でルイズを見る。 「嫌よね。本当にわたし自分が嫌いよ。 本当はちゃんと気に掛けられているって分かっているのに。 何も思っていないなら、あんな建物造ろうとも思わないのに。 ああ、獣はどこかしら。早く悪夢を終わらせたいわ」 ゆらりと立ち上がって、カトレアは奥に進む。 そんな風に見ていたんだ。私のこと。 同情から優しくされていたのだろうか? そんな事を考えていると、気が付けば一人になっていた。 「あれ?」 置いていかれた事に気が付いたルイズは、 辺りを見渡すが何も見えない。 「ど、どうしよう」 暗い森の中、一人でいるのはとても不安だ。 明かりを杖先に付ける呪文はドットメイジから出来る。 つまりルイズがそれをすれば杖が壊れるかもしれない事を意味した。 「ち、ちいねえさま何処に行ったの?」 しかし返事は無い。代わりに風変わりな笑い声が聞こえた。 「だ、だれ?」 笑い声は前から聞こえる。ルイズはその声の方へと進もうとしたとき―― 「誰かと聞きたいんなら、まずお前から名前を言うべきだと思うんだが?」 それなりに若々しい声が耳元でささやいた。 「ぎゃぁあああああああああ!!!」 驚いて尻餅をつくルイズを余所に、耳元でささやいた老人が笑いながらまくし立てる。 これ以上なく愉快そうに。 「良いねぇ。絹を裂いている!何で裂く?裂いて売るのか?儲かるのか?」 やたらとテンションの高い老人がルイズの背後に立っていた。 毒々しい色の服を着て、大きな杖を手で回して遊ぶ様は年を感じさせない無邪気さがあった。 髪はほとんど白髪で、肌の色はルイズに近い。特に際だった特徴はその目で、左右で色が違う。 ハルケギニアでは猫目として知られるオッドアイで、金と銀の目を持っている。 その瞳も猫の様に細い老人を見たルイズは、何とか言葉を出そうとするが、 何の意味も持たない物しか口からは出なかった。 「ああああ、あ、ああ、あ、あんた」 しかし老人はそれらにすら意味を持たせる。 「あがくってか?悪くないな。しかしこの余にあがくのか? やめとけにん…君は人間かね?何か違うな。ここの連中は普通じゃないが、 だが何か違う…あーパラか。そうだな。お前パラか?パラだな。いよう!パラ」 「パラって何よ!」 ようやく物を言える状態まで心が落ち着き、ルイズは無謀にもツッコミを入れた。 老人は内心良い暇つぶしができそうだと思いながらそれを顔に出さず、首をかしげた。 「パラはアレだろ。こんな桃髪してやがるくせに違うと?変わった人間だ」 「桃じゃないわ!『ピンクがかったブロンド』よ」 変わった老人は目を大きく開けて驚いた。 「なぜイチゴ?それだとショッキングじゃあないし、冗談にしちゃつまらん。才能がないな。全く無い」 「何がショッキングよ!そもそも何がイチゴなのよ」 「落ち着け!衝撃的な顔が台無しだぞ?ミス・ショッキング」 ルイズは顔を真っ赤にして言い返す。完全にからかっている老人のペースだった。 「勝手に名前を作らないで!私はルイズ! ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールって名前があるんだから!」 「分かった。よろしくなショッキング・ルドラ」 「ルドラって何なのよ!!!!」 「ルドラはルドラだろうが。全くこれだから最近の若い人間は。100歳なんざ若輩もいいとこだ!」 「十分老人よ!!!」 ツッコミの連打にルイズは段々疲れてきた。 笑顔の老人はとても楽しそうに、次は何を言おうかと考えている。 「あ、あんた、もしかして…シェオゴラス?」 乱心の神、以前悪夢の女王から聞いた名だったが、こいつ以上に相応しい存在はいない。とルイズは感じた。 ぜいぜいと息を吐いて言うと、老人の目が更にランランと輝き、気持ち良さそうに叫んだ。 「そうだ!余の名はシェィオゴォォォラァス!!!きょぉおおおうきのおうじさまだぁあああああ! 他にも色々あるが面倒だから省く。で、お前はなんなんだルドラ。 お前はここにいてここにいない。夢見気分で余に会ってやがる。 誰の回し者かね。アズラだな?あいつ以外いねぇ! そんなに嫌か?負けるのが。負けたのは余だ! ズルして負けたのを余の島まであざ笑いに来やがった!! それで、お前さんはなんなのかね。ナイスクリーム食うか?美味いぞ。 余は食べることが好きでな。こいつはなんと……」 ようやく老人は本題に入った。今もまだ色々と喋っているが省略する。 彼はどこからか取り出したクリームを舐めながらルイズを見ている。 これはルイズが何者かを聞いているだけであり、他は全て修飾の類だ。 シェオゴラス。乱心の神であり、その心の内は誰にも分からないとされる神。 現在はシロディールの英雄と称される、マーティンの友人がその役を担っているが、 元々はこの老人の格好のデイドラがシェオゴラスと名乗っていた。 狂気を司る存在として相応しく、「自他共に認める」狂人である。 ルイズはノクターナルに振り回されるマチルダの気分になりながらそれに答えようとしたが、 生来の空気読めない子の力を発揮してしまった。 「その前に一つだけ良い?」 「何だ、早く言え。言わないと段々空に浮かんで行くぞ。シェオゴラスはどれほど空高く浮かぶのか!」 叫ぶように歌っている。ルイズは頭が痛くなってきたが、とりあえず聞いてみた。 「…何で普通に喋ってるの?」 王子達はあれが普通と聞いたから、何か不可思議に思ったのだ。 「ああ?あれはちょっと疲れるんだ。分かるか?魔法力を使うのだよ。だから例えば――」 小雨が嵐になる。風が恐ろしいほどにうなり声を上げ、 そこら辺の木々をなぎ払う。ルイズは風にあおられるが地面にへばり着き、悲鳴を上げる。 しかしその金切り声は嵐のごう音によって全てかき消され、シェオゴラスの耳には全く入らない。 『こういう時なら使う訳だ。で、お前はなんなのかね、ショッキング・ルドラ』 止めてとルイズは叫ぶが、嵐のせいで全く聞こえない。 シェオゴラスは涼しい顔だ。嵐は彼を避けてルイズに当たっているのだ。 『おい、どうしたルドラ。大丈夫か?雨まみれに泥まみれじゃねえか。 ナミラじゃあるまいに。風邪を引くぞ。お前頭の方は大丈夫か?』 からかう相手が死なない程度に不愉快な思いをさせる。 シェオゴラスが好きな時間の潰し方である。 しかし、彼の領域にアポ無しで入ると下手をすれば死んでしまうので、 そこは要注意である。 こう――姫に怒ってから少し切れやすくなっていて、 さらに姉の秘密を知って不安定だった堪忍袋の緒が、ついに切れた。 雨風の中ルイズは立ち上がって吠える。そして力が爆発した。 『あんたに――いわれたかぁないわよぉおおおおおおおおお!!!』 爆風が嵐を吹き飛ばす。雨風どころか森の一部まで消え去る大きな爆発だった。 シェオゴラスは口笛をヒュウと鳴らす。 「なんだ、お前も出来るじゃねぇか。まあ当然だなパラだからな」 ぱんぱんとリズム良く手を叩くシェオゴラス。当然だが、尚更ルイズの怒りは燃え上がる。 「なんなのよあんたはぁあああああああ!!!」 ルイズは切れた。サイトなら死を覚悟する程度には切れた。 怒りで黒いオーラが彼女から吹き出しているが、 その程度で動じるほどシェオゴラスは柔でもない。 皮肉屋はやれやれと言いたげに両手をあげた。 「言ったであろう?余の名はシェオゴラス。狂気の王子様だ」 「うなされてるわね。ちょっとまずい事したかしら…。 ちゃんとわたしを理解するには、一番分かりやすいと思ったのだけれど」 カトレアはルイズに布団をかぶせて、動物たちと一緒に様子を見ている。 ルイズは難しい顔でムニャムニャと口を動かしていて、 その腕や足は何かを訴えかけるかのように、バタバタ動かしている。 カトレアの隣にいるラルカスが右手で頭を掻いた。『虚無』の魔法が珍しい事もあって、 どの様な状態かを確認しているのだ。 「シェオゴラス卿は人を選ぶからな…大丈夫だとは思うが」 「そうね。他の方々だと危ないだろうけど、たぶん大丈夫でしょうね」 ルイズの体を撫でながら子守歌を歌うカトレアは、 とても美しい若奥様に見えた。その様にラルカスは見とれてしまう。 視線に気付いたカトレアは、コロコロと笑ってラルカスを見た。 「どうかしたの?ラルカス」 「いや、何でもない」 「ふぅん」 三年前からそれなりな間柄だが、ラルカスが気後れしているのだ。 特に、カトレアの病気が治ってしまった今は。 ラルカスは今の生活が気に入っている。美しい女の主人に潤沢な実験道具の数々。 召喚のゲートが開いた時は驚いたが、その主人がヴァリエールの次女で、 しかも水のメイジを欲しているとなったら、自分以上の使い魔はいないだろう。 体を変えた事で得たスクウェアクラスの「水」の力、そして体力精神力共に旺盛。 人の為になるなら薄暗い洞窟で一人寂しく研究をするより、 そっちの方が大いにマシだ。そんな訳で彼女の使い魔になった。 最初はミノタウロスらしく接して、ある程度うち解けてから事実を上の姉妹二人に打ち明けたところ、 エレオノールに解剖されそうになったり、危険な島の住人達とかみ合わない話をさせられたりしたが、 今となっては良い思い出である。 カトレアとエレオノール以外は簡単な魔法がいくらか使える変わったミノタウロスとして認識している。 「先に言っておきますけれど、わたしは『普通』に戻れませんからね。 それ以前に、これがわたしの普通なのだけれど。 みんながみんな、模範的な貴族にはなれないもの。 わたしは元々そういうのからは外れていたのだから」 シェオゴラスの影響を受けたのはカトレアだけではない。 ラルカスに脳移植の方法を教えたのもシェオゴラスだった。 何があっても死にたくない。生きたいと願った結果、 ある日夢の中でミノタウロスの体を用いる方法を教わった。 人としての尊厳を捨てて、ミノタウロスとなって生きる。 狂気をはらんだ行為であることは間違いないが、 それでも生きることをラルカスは望んだ。 「ああ、わたしもだ」 コロコロと笑うカトレアは、そんな彼を微笑ましく見た。 前ページ次ページジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア